- 作者: 瀬名秀明
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2008/12/12
- メディア: 単行本
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生物学という学問的バックグランドと、SFという作家的バックグランドとの両方から微妙な距離にあるロボット学は、確かに瀬名秀明向けの素材だったようで、その変化の激しさをうまく自分の頭脳の活性化に結びつけたという点でご本人にとっても実りある関わりになっているのでしょう。
そういった瀬名秀明の関心と思考と問題意識の変化が部分的にとは言え追体験できるのはそれ自体面白いし、興味深い指摘もたくさんあって読んでいて飽きないです。(どこまで理解しているのかと言われると、かなり怪しいですが)
瀬名先生の思考も決して一直線というわけではなく、色々な模索をしていますが、最終章の書き下ろし部分は「科学」と「物語」の話題に戻ってきていました。この最終章はある意味で整理されていて分かりやすとも言えるし、ある意味では整理してしまったがために妙味が足りないとも言える。(あとは、常に世間の目を意識している瀬名先生らしく、こういうときは慎重派と言うか、穏健派と言うか、の立ち位置をきちんと守っている。)
相変わらずの瀬名節というか、真面目に全収録したものだから500ページぎっしり。ロボット・オペラより薄いとは言え、この量を収録してしまうところが瀬名先生らしいところ。
ただ、おかげでディテール的なところが楽しめる。「そうかあ?」と思うような部分もそのまま残っているので思考のヒントには役立つ。ネタ本として申し分なしです。分かりやすくかみ砕いてしまうと、こういう面白いディテールが落ちてしまうのですよ。
例えば、法月綸太郎氏との対談部分とか、私はSFファンの目で読みましたが、ロボット学者ならロボット学者、ミステリーファンならミステリファンなりの面白い読み方できるのだと思います。だから、やはり全収録はありがたいです。
資料として面白い部分も多く、例えば、「これからは家庭用ロボットだ」というかけ声があったけれど、実際には家庭用ロボットの市場はむしろ縮小していて、きちんと伸びているのは産業用だという資料も載っています。
以下、本書からの引用ですが、文脈と全然関係無い読みをしているものばかりなので、ページ数は省略します。
物語は一つの世界観を表す。現実世界は複数の世界観が並行して存在する。
単一の世界観ではなく、共有、重層と進む。
社会においては、プレイがルールに先行する
これは、TRPGにおける、世界観とシステムの持つ制約力を考えるのに使えるな、と。
生命とコミュニケーションは別のもの
この視点は使えるな、と思った。SETIにせよ、人工知能にせよ、コミュニケーションと知性、知性と生命の関係を常に自明のものとして関連付けているが、「分けてもいいんじゃない」という指摘と解釈しました。