k-takahashi's blog

個人雑記用

ランド 世界を支配した研究所

ランド 世界を支配した研究所 (文春文庫)

ランド 世界を支配した研究所 (文春文庫)

昔からよく聞く名前だったが、世界でも指折りの有名なランド研究所。この研究所からは、なんと29名のノーベル賞受賞者が出ている。以前読んだ「紛争の戦略」トーマス・シェリングもランドの研究者であった。ランドはまたシンクタンクという概念の草分けでもある。
最初はランドというのは地名か人名だと思っていたのだが、本書に依れば

ランドという名称は、「Research and Development」から来ている。(p.11)

だそうだ。随分とストレートな命名である。


本書はこの研究機関の生い立ち、経歴、現状をコンパクトにまとめている。一冊にまとめるためだろうか、ところどころはしょった部分もあるようだし、ランドの評価自体も多少偏りがあるようで、ランド研究所自体は本書に対して「われ関せず」的な態度をとっているらしい。
(「ランドは人間が分かっていない」的な記載が何度もあるが、ゲーム理論などの先端を研究しているランドの研究者から見れば、「分かってないのはお前の方だ」ということになるだろう。)
特定の人物についての記述が多くを占めている(ウォルステッターとか、ハーマン・カーンあたりも、今のランドにとっては違和感ありといったところなのだろう。


ちなみに、副題の「世界を支配した」というのは、別に陰謀妄想的な話をしているのではなく、ランドの考え出した方法論、例えばその一つは「シンクタンク」という方法論でもあるが、それが広く世界で使われているというくらいの意味。
上述のシェリングもそうだが、核兵器という使ったことのない、使ったらただではすまない、そういう道具をどう使う(使わない)ということを考え抜いた機関であり、確かに生半可な知的体力でどうこうできるものではないのだろう。そういうところから「フェイルセーフ」の概念も誕生している。


もともとは、空軍からお金を貰って研究を始めたが、その扱う内容上、どうしても軍や政府と関わらざるをえず、それとの対応に苦労してきた様子も書かれている。その最たるものが「ペンタゴンペーパー」事件だった。(ランドはネオコンとも関係があるが、ケネディとも関係しているし、レーガンとも関わっている。そして、もちろん今でも現役。)


警察や消防、住宅などの問題もランドは扱っており、また、医療費負担の問題も研究していた(これが1980年頃の話)。ここでも結構政治に振り回されている様子が描写されている。この辺はもう少し読みたい部分。


創立直後のランドの描写は、シリコンバレーベンチャーを思わせるもので、外部からは何だか分からないものにうつつを抜かしているようにしか思えないというのも同じ。こういう描写を見ると、シリコンバレー文化というのは、この2〜30年のものではなく、根深い米国文化なんだなというのが納得できる。
まあ、ランドは技術研究についても多くの業績があるので、当然といえば当然か。


そういうランドの「傲慢さ」(悪い意味ではない)は、以下のように何度も記されている。

手元にある事実で正当化できるのであれば、どんな結論に達しても構わないという自由が研究者に与えられている。

1946年、空軍から請け負った第一号プロジェクトとして、ランドは「地球を回る実験用宇宙船の初歩的なデザイン」と題した報告書を作成したのだ。この報告書の中で、ランドの研究者は、次のように記していた。
もしほかの国が人工衛星の打ち上げに成功し、そのニュースをアメリカが突如として知ったと仮定しよう。我々がどんなに仰天し、そしてどんなに賞賛するのか、想像するのは難しくない。

9月26日にホフマンは下院情報委員会に出席し、「十年前にもこの委員会に出席し、今回のような惨事を防ぐためにすべての対テロ活動を動員するよう提案しています」と言った。

このミサイルはアルバート・ウォルステッターが15年も前に思い描いたことを実際にやってのけ、彼の考えが正しかったことを証明したのです。

まあ、当たった予測ばかりが引っ張り出されているのではあるだろうけれど。


一つ、現代のアメリカ政治を見るのに、なるほどと思った記載があったので引用。

ウォルステッターは「ベトナムで起きた最悪の惨事は、ベトナム戦争から我々が学んだ『教訓』かもしれない」と記している。何を言おうとしているのかというと、左翼グループはベトナム戦争に暴力的に反対し、タカ派グループは孤立主義者になって「アメリカ要塞」の構築を提唱するなど、いろいろな力が相互作用し、アメリカは外国への介入全般に慎重になると言うのだ(ウォルステッターはこの状況を「SAC-SDS体制」と呼んだ。すなわち、空軍の戦略空軍司令部(SAC)のタカ派集団と左翼学生運動「民主社会のための学生連合(SDS)」の革命家集団が思想的な同盟を組むというわけだ)

これでアメリカが内向きになってしまうという話で、シリア問題とか見てるとそうかもなという気がしてくる。


人物エピソードを読む一冊としては面白いけれど、本当のところランドとは、というところには微妙に届いていないような感じ。この本を読んだだけで「ランドとは……」とやってしまうと、多分間違い。