k-takahashi's blog

個人雑記用

「砂漠の狐」ロンメル

 

「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨 (角川新書)

「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨 (角川新書)

 

 サブタイトルの「ヒトラーの将軍の栄光と悲惨」が大雑把な要約だが、序章がロンメルの死のシーン。ヒトラー暗殺への関与を疑われ毒を仰いだ有名なエピソード。ヒトラーに認められることで昇進し様々なチャンスが与えられて栄光を掴んだ一方で、猜疑心の犠牲になったという悲惨さ。

さらに第一章が「ロンメル評価の変化」。プロパガンダの題材になったり、その裏返しで攻撃の対象になったりしてきた。最近では更に悪化し「ロンメルの評価は、軍事的・歴史的なそれを越えて、政治的な色彩を帯びつつあるのだ」(No.238)という状況らしい。

 

内容は、実は読んでいる最中には、「知っていることの綺麗な整理だな」と思っていた。もちろん、これは私が大木先生の小文を色々読んでいるから大きなエピソードを知っていただけで、一般にきちんとまとめたものは事実上なかった。それをきちんとまとめたということには価値があって、今さらカレルやアーヴィングでもないだろ、ちゃんと最新情報を得ようよということになる。
幸い、本書は好評のようなので、ロンメル研究の最新情報は伝わりやすくなるだろう。

 

ロンメルの功名心が彼の出自や経歴に大きく依存するもので「生きていくために必要だったから」という説明は腑に落ちたし、工学系への指向(機械いじりがすきだったエピソード)も面白い。例の私生児のエピソードも、ドイツの主流たるプロイセン系とは違った価値観の持ち主だったと繋がるのにはなるほど、と。

 

私個人は、カレルの『砂漠のキツネ』とクレフェルトの『補給戦』をほぼ同時期に読んだので、「カレルはああ書いているが、よほどのことがない限り北アフリカロンメルが勝ちきるのは無理だったろうな」ぐらいの認識だったが、カレルとアーヴィングがメチャクチャにしたあげくに、政治のおもちゃにされてしまったロンメルは気の毒だと思う。

 

いまだにナチスの関係者を政争の具にし続けているドイツはともかく、日本にとっては良くも悪くも歴史上の人物なんだから、研究成果を楽しみ、創作ネタとして楽しむのを両立していけばいいのだと思う。
ただ、大木先生としては、きちんとした歴史学の研究の紹介をしたいという強い意志があったようだ。それはもちろん立派で正しい態度だと思う。その点からも売れて欲しいし、読まれて欲しい一冊。