k-takahashi's blog

個人雑記用

SFマガジン2012年01月号

S-Fマガジン 2012年 01月号 [雑誌]

S-Fマガジン 2012年 01月号 [雑誌]

『ドリアン・グレイの恋人』(グレゴリイ・フロスト)は、例のオスカー・ワイルドの作品をベースにした作品。SF味は薄いし、このタイトルで食事シーンから始まったところで設定はすぐに推測できるが、読ませる一作。


『11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス』(ロバート・F・ヤング)は1965年の作品。ヤングの作品がSFマガジンに載るのが、2000年の『たんぽぽ娘』以来というから、まさにオールド・クラシック。
途中まで発表年代のことに気がついていなくて、最後のオーソドックスなオチと伏線の回収とで妙に感心してしまった。


ハヤカワがSFの新シリーズを開始するにあたり、今号には関連記事が載っている。二つ目に予定されている『第六ポンプ』に合わせて『見えない虎を描く』とういバチガルピのインタビューが掲載されている。これも元記事の掲載日を見落としていて(2007年)、なぜ『ねじまき少女』の話に触れないのだろうと不思議に思いながら読んでいた。(このインタビューに出てくる「執筆中の長編」というのが『ねじまき少女』にあたる。)
タイトルに出てくる「虎」は、「僕らは身近な脅威に反応するように遺伝子レベルで作られている。たとえば虎だ。うわ、虎がいる、逃げろ、ってね。」という部分に対応している。そういう脅威が分かりにくくなっているが、SFという手法を使えば描けるというわけだ。

ところで、インタビュー中にこんな記載がある。

近視眼的で金儲けしか考えない人間はどう行動するだろう。疫病を開発して、知的所有権で保護された自分の種子以外の品種を全部殺してしまうんじゃないだろうか。自由な市場なんだからね。競争相手をつぶせば消費者は自分の製品を買ってくれる。(p.262)

ちょっと変えてみる。

知的所有権で保護された自分の製品以外の製品を全部殺してしまうんじゃないだろうか。自由な市場なんだからね。競争相手をつぶせば消費者は自分の製品を買ってくれる。

ICT分野で何度となく繰り返され、今まさに時価総額世界一の某社がやろうとしていることに他ならない。と考えれば、バチガルピの書いていることは、コリイ・ドクトロウが書いていることに非常に近いと言える。そして、ICT分野でもビジネスが絡んだところでは「生態系」という言葉がよく使われる。そこに倫理を絡めると『ソフトウェアオブジェクトのライフサイクル』に繋がる。
バチガルピは別に孤高でも異端でもなく、現代SFの中にきちんと位置づけられていると思うよ。

ICT分野での過去のそれらがいずれも短期の成功に留まったことを、バチガルピ的視点からはどう捉えるべきかは課題かな。