ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略
- 作者: 鈴木良介
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2011/11/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書の冒頭にこんな記載がある。
カリスマ経営者による判断の重要性は今後も変わるものではない。しかし、そのような経営者は究極の有限資源であり、持つことの出来る事業者はごく一部に限られる。それ以外の者にとってもイノベーションの底上げを行うための武器が必要だ。(pp.1-2)
天才ではなく、一般人が使うツールとしての「ビッグデータ」と統計処理という位置づけである。これが本書の一番重要な点。そういう視点から、事例紹介や技術解説、ビジネスへの影響を書いている(IBMのSPSS買収を、人材集めの視点から捉えていたりする。)。本書は科学書ではなくビジネス書なのだ。
また、そうして集めたデータの使い方にはもう一つのクラウドであるクラウドソーシングの利用も視野に入れている。(本書が例示しているのは、ネットフリックスの事例(p.91)。同社はレコメンデーションエンジンの改良コンテストを開催したのだ。元データも評価データも実際にネットフリックスが持っている膨大な顧客データを使っている。)
ビッグデータ活用の類型化を、「ストックデータかフローデータか」「結果を系に適用するのか、個別に適用するのか」という2軸4分類にしたり、ビッグデータ活用が生きる条件として4つ(通信の隠蔽、ゼロクリックサービス、速度による中毒化、遊休時間・遊休資産活用)並べたりとかするところもビジネス書っぽい。
実際、この分類で色々な事例が分かりやすくなっている。
- ストックデータを系にフィードバックする例が、ECサイトの設計
- ストックデータを個別にフィードバックする例が、レコメンデーション
- フローデータを系にフィードバックする例が、スマートグリッド
- フローデータを個別にフィードバックする例が、行動ターゲティング
といった感じ。
条件の4つめの「遊休資産」のところでは、いわゆるライフログの拡張として、個人が有効活用していないもの(あるいは時間)を活かすという発想もしていて、これも面白い視点だと思った。
そしてビッグデータビジネスとして、このビッグデータ自体を売り買いするビジネスや、ビッグデータ活用をサポートするソリューションといった話題も提供している。
HadoopやDWHなど技術的な解説もあるが、こちらはある程度ITに興味のある人にとっては既知の内容。プライバシー情報の扱いの問題も、よく聞く話のレベル。一方で、プライバシー問題を解決し、法的側面をサポートするのがビジネスになるという記載があり、まさにそういう本。
ビジネスの視点が面白い一冊なので、この分野に興味があるなら、「どうせ技術的には薄いんだろう」(実際そうだけど)などと言わず、一読の価値ありと思う。
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