- 作者: ゲームジャーナル編集部
- 出版社/メーカー: 並木書房
- 発売日: 2011/12/01
- メディア: 単行本
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「坂の上の雲」はたしかによくできた作品ではありますが、
多くの誇張や演出を含んだあくまで小説であり、
歴史的事実氏のものの記述ではないにもかからず、
司馬遼太郎によって描かれた歴史像を、
そのまま歴史的事実であるかのように信じているファンが
今なお多いことも事実です。
(帯より)
ということで5つのエピソードを検証している。
- 旅順要塞戦 乃木第三軍司令部は無能ではなかった
- 日本海海戦 勝因は丁字戦法ではなかった
- 秋山兄弟伝 実は時代遅れだった秋山騎兵旅団
- 児玉源太郎 児玉源太郎は天才作戦家ではなかった
- 奉天大会戦 奉天会戦は中央突破ではなかった
この辺を、研究結果や資料を用いて解説している。
個人的には秋山好古の騎兵のところがあまり知らない話で、興味深かった。
おそらく秋山自身は、帝国陸軍における騎兵科の創設者でありながら、既に「決戦兵種」としての騎兵の時代は終わっていたことに気がついていた筈である。
このため秋山は自ら「騎兵の戦闘は白兵攻撃すなわち襲撃の一あるのみ」と述べておきながら、実戦では勝つために徹底的に持論を否定するかの如く馬を下りて、必要とあらば地下に潜ったのである。
たとえ自分の本意と違っていても、その時の状況に応じて最善の戦術を即座に決断できる秋山好古は、間違いなく名将たりうる素質はあったに違いない。(p.120)
そして、これら5つの疑問のあとに「坂の上の雲には描かれなかった結末」という章が書かれている。
先日のNHKのドラマでも高橋是清がロンドンで苦労する様子がちょっとだけ出ていたが、戦費の調達は本当に大変だったようだ。日露戦争中の臨時増税は、2年間で国家予算の半分に相当する1億4千万円になるが、これではとうてい足りずに公債を発行することになる。戦争中に国内で発行した公債は4億8千万円。これで足りない分が外債となったわけだ。
坂の上の雲ではヤコブ・シフが反ロシアの立場から買ってくれたというエピソードが描かれていたが、その後も鴨緑江戦をはじめとした会戦での勝利でなんとか買って貰えていくという状態だった。(この辺は、「A君の戦争」でも取り入れていたな)
といった史実(もちろん、今後の研究により更に変化があるかもしれない)の知識があれば、司馬遼太郎の作劇をより深く愉しむことができるだろう、というのが本書の趣旨。
その意味では、本書は最新の知見による分析だから、執筆時点で知ることの出来た知識と司馬遼太郎の解釈という切り口が更に残っているわけだな。戦史研究という観点からではなく、作劇術という観点からは、そちらの研究も今後行われるのかもしれない。