k-takahashi's blog

個人雑記用

漂流するソニーのDNA

漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち

漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち

「新しい」コンピュータは、作る人々が「どのような生活を実現したいのか」という思想がなければできあがらない(はじめに、より)

という視点から、プレステというコンピュータを振り返る一冊。5年前に出た「美学vs実利」*1の増補改訂版になる。
全然知らない話というのはあまりないので、以下私のメモも兼ねて。


PS1 〜映像を計算生成するコンピュータ

岡本は、LSIロジックとの協業について、次のように語る。
「彼らのノウハウは大変なものだったんです。実際のところ、われわれや久夛良木が作った設計は、彼らから見るとかなり無理があるものだったようです。ですから、九二年末に久夛良木が考えていた構造からは、大幅に手直しがなされています。最終的にできあがった製品としてのプレイステーションと、久夛良木が最初に考えていたプレイステーションは、けっこう違うものなんですよ」(pp.58-59)

プレイステーションの初期出荷が10万台だったのは、CDドライブが不足していたからなんです。100万台というのは、それだけの覚悟で臨んでくださいよ、という、協力メーカー山へのエールでもあったんです(p.62)

販売の側面では厳しい戦いを繰り広げる両社だったが、こと開発の現場では、決して仲が悪いわけではなかった。SCEと協力するナムコ、そしてセガ・エンタープライゼスは、大田区にあり、会社所在地もそう遠くない。両社とSCEのエンジニアが蒲田で飲んで情報交換、ということはごく普通に行われていたという。(p.65)

セガSCEの関係というのが、相変わらずよくわからない。

PS2 〜感情生成

製品開発にはトラブルがつきものだ。うまくいっているように見えて、製造上の理由やコストや技術的難題から、突如壁にぶつかることも少なくない。
多くの場合、そこで方向を転換したり立ち止まって解決策を見つけることになるわけだが、PS1,PS2の開発は、ちょっと違っていたと岡本は続ける。
「バックアッププランを走らせておくんです。使わなければ無駄になるんですが、結局その余裕が、最後にプラスに働くんです。ある意味、カオティックだと思いますよ。A案・B案・C案と考え、A案に決まったあとでも、B案を止めないんですから(p.105)

PS3では、あまり有効に機能しなかったということなのかな?

1999年11月、PS2向けの半導体レーザーの初回試作が行われたとき、工場のラインから出てきたチップの中に、正常に動作するものは、なんと一つもなかった。(p.109)

生産問題はPS3でも発生する。

PSX

当時ソニーは、技術政策面で深刻な問題を抱えていた。特に、ここから五年間を指させるビジネスである「DVDデコーダー」「薄型ハイビジョンテレビ」の二点に関し、深刻な技術的空白を生み出していた。(p.132)

久夛良木ソニーの副社長になった頃の話。

PSXが意図した『気楽なレコーダー』として評価されず、ダビングなど機能の有無や性能スペックだけで『ダメな商品』とみられている。このことをどう思うか。是正の策はあるか」
それに対して、久夛良木の答えは、正確にはこうであった。
「何言ってんだ、と思ったね。(マニア向けに作ったのではなく)使いやすさ重視で作ったのだから、そこを見て欲しい。実際、うちでは、かみさんや子供が喜んで使っていますからね。この製品のポイントは誰でも使いこなせる快適さなんですから」
内容がズレていることは、おわかりいただけるのではないだろうか。筆者と久夛良木との問答の中で、久夛良木の発した一部分だけが別のニュアンスで伝えられた(p.148)

こういった、切り貼り印象操作は、このあと何度もやられることになる。ただ、言われっぱなしになった理由の一つはプロデュースが弱かった(丸山茂雄の不在)からではないかとも著者は指摘している。(p.204- のPSPの□ボタン問題でも、同様の手口で久夛良木が叩かれている。)


PS3 〜ネットワーク世界を計算で生成する

プログラマーにとっては、すべてが『予測可能』であることが重要なんです。予測しないタイミングで速度がストーンと落ちるようだと、それを解決するために、開発の初期段階まで戻って検討をしなければならないので、かなり厳しいんですよね。制限があっても、設計通りの結果が返ってくる構造の方が、処理速度の見当がつけやすい(p.181)

リアルタイム処理にこだわるコンピュータならば、ということで導入されたキャッシュとはことなる専用メモリ空間。
そして、この後にさらに、セル(SPE)のコア数でもうひともめすることになる。

PS3をエンターテインメント・コンピュータにするには、ゲーム以外のアプリケーション・ソフトをどのように開発するのか、またそれらはどんなビジネスモデルで販売するのかと言ったことを決めねばならない。
しかし、OSの再開発を行っている状況では、正直それもままならない。マイクロソフトがパソコン業界で行っている利用シーンの遡及や、パートナー企業への開発支援も同時に示さねばならない。今のSCEにそれができるのか?(p.222)

プラットフォーマーとしてのSCEの準備不足について

半導体レーザーの開発がなんとか終了したが、今度は量産の過程でまた躓いてしまう。生産量が思わしくないのだ。
一ヶ月に数千個のレベルの生産ならば、これまでも問題はなかった。ところが、PS3が求めたのはその二桁上だ。(p.227)

またも生産問題。

ポスト久夛良木

製品は売ったら終わり、の時代が終わる(p.262)

皮肉にも、この久夛良木の主張が実現したのは、彼の退任後だった。

その他

PS3のセールスについて、こんな記事があった。

調査会社のIDCが新たな報告書を公表し、昨年12月にプレステーション3がXbox360の累計販売台数を超えたことなどが報告されています。
(中略)
それによれば2012年12月におけるプレイステーション3の販売台数は7700万台に到達し、Xbox360の7600万台を逆転しました。またIDCではWii Uの2016年末までの販売台数について5000万台に達すると予測しています。

http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=7381

性能が一回り下のWiiがかなり早くから減速していたのは伝えられていたが、ワールドワイドの台数的にPS3がX360に追いついたというのは、正直ちょっと驚いた。


先週、こんなニュースが流れた。

 ソニーは1月31日、2月20日プレイステーションをテーマにした特別イベントを開催することを明らかにし、イベントではゲームファンに「未来を目撃」してほしいと訴えた。

ソニー、PS3後継機を2月20日のイベントで公開へ=関係筋 - WSJ

PS4の発表だとも、Gaikai の新サービスの発表だとも噂されているが、それは追々分かるだろう。
おそらくこのイベント合わせと思われるビデオも公開された。


本書に出てくる半導体開発とゲーム機ビジネスの関係の歴史と、その現状については以下の記事が良いと思う。

 フアン氏の挙げた数字はかなりラフなものだが、ポイントは明瞭だ。汎用デバイスが、軒並み高い3Dグラフィックス機能を持ちつつある今、それを上回るゲーム機を作ること自体が難しくなってしまった。ゲーム機ベンダーだけでは、汎用の世界での膨大な研究開発費に太刀打ちできない。ゲーム機の立脚していた土台が崩れつつあるというのがフアン氏の認識だ。

【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】NVIDIAフアンCEOインタビュー ~SHIELDはゲームのビジネスモデルの変化で産まれた - PC Watch

*1:

美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史 (講談社BIZ)

美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史 (講談社BIZ)