k-takahashi's blog

個人雑記用

時を生きる種族

時間もののSFアンソロジーとしては『時の娘』*1があり、面白く読ませてもらった。本書は、その続編的な位置づけ。


アンソロジーを組む面白さというのは色々語られているけれど、本書の中村融氏は

復活させたい作品のリストがつねに頭のなかにあって、そのいくつかが組み合わさったときテーマが決まり
(あとがき、より)

と書いている。その背景として、翻訳SFでは中短編の発表の場が少ないという問題がある。
実際、毎年の星雲賞の候補作品であってすら、SFマガジンを定期購読していないと読めないというのがざら。まあ、再録については電子出版が広がれば多少チャンスは広がるが、無名作家の新訳というのはやはり困難であることに代わりは無いだろう。
そもそも、本書の表題作である『時を生きる種族』なんて、ムアコックの作品である。それが書籍初収録なのである。


個人的なお気に入りは表題作の『時を生きる種族』。
バラードが1962年に発表したエッセイの

時間を輝かしい観光道路のように見るのではなく、あるとおりに人格のパースペテクィヴのひとつとして、また時間帯、深時間、原始心理的時間といった概念を精密化させて使っているところを見たい

に応えて書かれた作品とされている。ちょうどエルリックシリーズを書き始めた頃(『夢見る都』が1961年、本作が64年)になる。


他の作品も面白いし、語り口とか良いのだけれど、ややベタな印象を受けたものが多かった。(時間旅行をしてシェヘラザードに会う『真鍮の都』(ロバート・F・ヤング)とか、恐竜狩りのエピソードを語る『恐竜狩り』(ディ・キャンプ))とか)
『努力』(シャーレッド)も、帯には「歴史的傑作」と書いてあるけれど、今となっては、SFファン的には掘り下げがもう少し欲しいかなと思うし、一般向けとなると描写が古いかなあ、という感想。

*1:

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)