k-takahashi's blog

個人雑記用

軍事研究 2014年4月号

軍事研究 2014年 04月号 [雑誌]

軍事研究 2014年 04月号 [雑誌]

タイミング的なこともあるのだけれど、ロシアのクリミア侵略についてはほとんど触れられておらず、単なる政変という見方がほとんど。
巻頭には、ソチが無事に終わって良かったというのに続けて

これがソ連主導の武力制圧という悲劇で終わった「プラハの春」のようにならないと良いのだが。親EU路線を取っても、ロシアが手をこまねいているとも思えず、その前途には多くの困難が横渡っているからだ。(p.27)

とあるが、実情は遙かに酷いことになっている。
流動的な状況を記事にするのは大変だが、江畑先生のように誠実に書いてもらえると嬉しい。予想が外れてもそれはしょうがないだろう。主に軍事面からの分析を期待したい。

中国の『防空識別圏』隠された意図(田中三郎)

繰り返しになる部分も多いが、まとまった解説。『問題は防空識別圏の設定と同時に中国国防部が告示した防空識別圏識別規則である。(p.31)』と記載。
田中氏は今回の騒動を、軍の一部がといったものではなく計画的なものと捉えているようだ。

『ディプロマット』の共同編集者ザカリー・ケック氏が、中国の防空識別圏海上での主権論争に向けた「より大きく巧妙な“法律闘争(Lawfare)"の一環である、と
(p.32)

今回の決定は、弱いながらも外交部系統も関与していると見られ、軍の暴走という見方は妥当ではないだろう。中国側はこれで制度的な布石は打ったことになり、国際的な批判を浴びても撤回はしないだろう。領海法の制定は1992年だったが、それが今になって大きな意味を持ち始めており、同様に防空識別圏も現在は実効性がなくても、中長期的には意味を持つ可能性がある。(p.35)

軍事力を増強したあとで、その正当化に使うという領海法のパターンを懸念している。

中国を圧倒!最大・最強の空母「フォード」(多田智彦)

2016年に就役予定のフォード級航空母艦についての解説。

  • 飛行甲板が主甲板ではない(飛行甲板から下に4つめの主甲板)、但し、飛行甲板の鋼材は新規開発した「高強度高強靱鋼115」が採用されている。
  • 新型原子炉A1Bの炉心寿命は50年。出力はニミッツと同じだが、効率が向上しているためで、これで就役中の燃料交換が不要となっている。
  • 電磁カタパルト(EMALS)は制御性能を向上させたこともあり、航空機にかかる力の平均値と最大値の比が1.25から1.05へ改善。エネルギーも95MJから122MJに向上する。

など

米空母航空団の次世代エアパワー(石川潤一)

米空母航空団の解説記事。まとめ記事的な感じなので面白かったところを箇条書き。

  • E-2D(アドバンスドホークアイ)は、ロトドーム(回転ドーム)が採用されているが、これは機械的走査と電子的走査を切り替え無しに平行できる能力や、ドームを止めて特定方向に向け続ける能力が加わっている。これにより死角ができなくなる。これがロトドームが使われ続ける理由。(p.57)
  • F-35CはあくまでもF/A-18Aホーネットの後継機であって、F/A-18Eスーパーホーネットの後継機ではない。(p.58)
  • 空母と水上戦闘艦に対潜装備の異なる共通の機体を配備するというコンセプト(p.62 米海軍の艦載ヘリコプターについて。SH-60R(MH-60R)のこと)

日本とアメリカの共同軍事作戦計画(福好昌治)

1997年のガイドラインはさすがに古くなっており、改訂が必要。それがどうなるかという記事。
東日本震災のときにも、「日米防衛協力のための指針で規定されている調整メカニズムに準じる」形で調整が実施された(準じるであって、そのまま発動したわけではない)。
現時点では、

周辺事態安全確保法によると、米軍に対する後方支援は日本の領域内で行うことになっており、公海上でも実施できるのは輸送だけである。公海上での海上自衛隊補給艦による米軍艦船への洋上補給すら実施できない。自衛隊の輸送機を止揚して、韓国に物資や燃料を輸送するといった効果的な支援はまったく実施できない。(p.100)

となる。また他の齟齬の例として例えば、北朝鮮の特殊部隊は日本の全土を攻撃してくる可能性がある。ところが、これに対処しようとして日本全土を「行動の地域」にしてしまうと、「自衛隊法第103条によると、医療、土木建築、輸送業者による自衛隊に対する支援は「行動の地域」以外で行うことになっている」ため矛盾が発生してしまう。

WORLD・IN・FOCUS(菊池雅之)

統合運用について、

私が「ああ、自衛隊が統合運用されているなぁ」と肌身で感じるのは、ここ2〜3年、取材の申請先として、統合幕僚監部の広報窓口が増えてきたことだろうか。(p.119)

というのは、なるほどと思った。

ペルシャ湾掃海回想録(8)(落合蔲)

いよいよ帰国となり、戻ったらどうするという話題をクェート海軍のナサ大佐としたときのエピソード。

「休暇中の一番の楽しみは何か?」
「砂漠に帰る」
「エッ!砂漠に帰る?」
「そうさ、砂漠で家族とユックリ過ごすのがなによりも楽しみだ」
(p.150)

一方、「雪見酒が楽しみだ」というのを相手は不思議におもっていたそうだ。

F-22撃墜!国産アイ3戦闘機(阿部拓磨)

防衛省の技術研究について。
防衛関連の研究に暗雲が垂れ込めていることに対して、「日本版DARPA」設立を検討している。
この場合、生み出された技術は大きく2系統に分けられる。一つ目が「ミッション型開発」で、成果を全て政府が買い取り、特定目的にのみ使用される。二つ目が「デュアルユース化」で民間にも成果を広く公開する。防衛予算の25%程度を投資するという構想だそうだが、調整がはたしてうまくいくのかなあと疑問。シャフトが東大を追い出された理由の一つが「DARPAロボティクスチャレンジ」だったということもあるし。
あとは、UAVについても書かれていた。シーグライダーと呼ばれる、開発・運用コストの低いUAVが実用化に向けて開発されている。

ロシアとはたして信頼関係を築けるのか(小泉悠)

クリミア侵略の件で色々話が変わってしまったところも多いけれど、日露防衛協力についての解説記事。
対中をどう見るかというのがもちろん大きいのだけれど、

ロシアが求めているのは中国に対する「封じ込め」のようなものではない(p.206)

日本側が提案した中国問題についての協議をロシア側は拒否したと伝えられる。(p.207)

また、東日本震災の直後にロシアの戦闘機が日本領空に接近した件で日本の世論が硬化したことがあるが、昨年も5年ぶりに領空侵犯が発生し、しかもそのうち1回が2月7日の北方領土の日だったこともあり、どうも防衛当局者レベルでも信頼が充分とは言い難い状況のようだ。


記事の最後には、アデン湾での共同訓練が予定されていると書かれているが、これもどうなるか分からない。

「軍用衛星」小型・安価の実証研究(井上孝司)

国防省で進められている限定的・小型・安価な衛星についての研究の紹介。
「ORS計画」がそれで、打ち上げ経費2000万ドル、衛星4000万ドル、という上限で衛星をあげようという計画。
TacSat-2は、「早く安く」やったらどんな問題があるかの実証。2006年12月16日打ち上げ。
TacSat-3は、「迅速な対応」の実証。衛星が入手したデータを10分以内に地上に送るという目標で、2009年5月19日打ち上げ。
TacSat-4は、通信衛星の補完機能を実証。450kgの衛星で10チャンネルUHF通信をサポート。2011年9月27日打ち上げ。
それを踏まえての本命のOSR。OSR-1は2011年6月29日に打ち上げ済み、OSR-2は2015年打ち上げ予定。OSR-3では衛星組み立てを47日で実施、などと進めているそうだ。
他にも、超音速機と使い捨てロケットを使ったロケット打ち上げ構想XS-1、100ポンド程度の衛星を対象にしたALASA(ボーイング社)、安価な偵察衛星を実現するSeeMe(レイセオン社)、小型衛星の集合体を実現しようとするSystemF6(BBNテクノロジーズ社)など。いつものことだけれど、色々考えてるな。
こういうのが実現して、その技術が民間開放されるとスピードは速いだろうな。