k-takahashi's blog

個人雑記用

軍事研究 2016年9月号

軍事研究 2016年 09 月号 [雑誌]

軍事研究 2016年 09 月号 [雑誌]

極東ロシア、オホーツク・千島列島の軍事力強化(小泉悠)

極東ロシア軍の軍拡について。「千島列島に海軍拠点を建設する」という発表がすでにあるが、マトゥワ島がその有力候補になっている。
実は、現在「極東ロシア軍」という公式な部隊は存在していないが、日本の安全保障という点からは防衛白書の「我が国周辺のソ連/ロシア軍」(バイカル湖付近以東)というのが目安になっている。その分類からだと海軍の拡充が目立ち、この5年で10隻(5万トン)増加している。中国軍の大軍拡ほどではないが潜水艦・ミサイルは拡大している。
小泉氏は『交渉材料として北方領土内の一部を非軍事化する』が考えられるという指摘をしている。

北朝鮮ムスダン、ロフテッド飛翔に成功!(能勢伸之)、飛躍的に進歩する北朝鮮のミサイル技術(野木恵一)

北朝鮮のミサイルについての記事が2本。「ロフテッド」(高高度経由で落下させる軌道)の実験だったと見た上で、それを防げるかの議論をしている。ロフテッドの場合速度が上がるので迎撃の難易度は上がる。PAC-2では無理、PAC-3でも難しい。SM-3の改良が急がれる。
また野木氏は、ムスダンが液体推進、北極星が固体推進であると分析しており、北朝鮮が2系統の弾道ミサイルを同時に開発していることを指摘している。(これも対応の手間に繋がる)

空自の高性能警戒管制レーダ(宮脇俊幸)

空自の次期レーダーについての提案。分散型、パッシブ型について原理・長所の説明をしている。
パッシブ型は民間電波を利用するので急場に対応できるかが課題だ、というのは面白い部分。

APCとIFVの動向と将来(後) 大口径機関砲とモジュール装甲(奈良原裕也)

戦車が治安維持任務に投入されたのは「最も高い防御力を有していたから」。
ならば、APCやIFVの防御力を高めるとどうなるか。重量軽減のために無人砲塔を導入。大口径機関砲を搭載し、電子装置を付け、支援システムを積む。すると重くなるのでエンジンやサスペンション・ブレーキを強化。としていくと、ほぼMBTになる。
イスラエルでは、MBTをIFVに使う訓練をしており、両者の差は小さくなっていくのかもしれない。

WORLD・IN・FOCUS(169)(菊池雅之)

「マラバール」演習のレポート。6月に中国軍の855艦が日本領海を侵犯する事件があったが、マラバールからリムパックに移動するインド海軍を追いかけるためだった。
今年から日本もマラバール演習のレギュラーメンバーに昇格したが、他の東南アジア諸国も今後加入する可能性が高いそうだ。

一陸上自衛官の回想(5)(松島悠佐)

松島悠佐元陸将の回顧録。陸幕防衛部の頃(03中期計画)の話で「18万・13個師団に手を付けるなと言っただろう。これに触るとまず削減ありきに走る結果になるからだ」という注意があったというのは、政治とつきあう難しさが出ている言葉だと思った。
韓国対応の苦労も書かれており、韓国国防を優先に考える人はまともだが、それ以外は色々大変そう(書いてないことも色々あったろう)

中国人民解放軍『戦略支援部隊』創設(田中三郎)

中国人民解放軍戦略支援部隊」の解説記事。空・宇宙・サイバーなどを扱う。宇宙ステーションを軍事拠点にすることを公然と論じており、実際、副司令の李尚福少将は衛星発射センターに長期に渡り関わってきた人物である。衛星攻撃用兵器の実験をおこなっているのもここらしい。

現代アメリカ軍の用兵思想(田村尚也

用兵思想連載の最終回は現代米軍。
二次大戦後にドイツの戦術教本の影響下にあったが、マクナマラ時代に過度の中央集権化が進んだ。その端的な例が「命令の不在による無活動は許しがたい」という文言の削除。その悪影響がベトナム戦争に現れた。
ベトナム戦争後に「アクティブ・ディフェンス」構想が出たが、これも「フリクション(摩擦)」軽視との批判があった。
その後に出てきたのが「セントラル・バトル」。これも火力重視だったが、縦深に着眼していた。
そして、1981年に「エアランド・バトル」が発布される。機動戦/消耗戦の二分法で言えばはっきりと機動戦に重点を置いている。時間空間の広がりを迅速に活用するもので、この考え方を全軍で共有することで「フリクション」の軽減も図る。これが時期的に「クラウゼヴィッツルネッサンス」と重なっている。

第五師団の記録に見るマレー上陸作戦(前)(藤井非三四)

1941年12月のいわゆる「マレー電撃戦」。それに伴って第五師団が上陸作戦を行ったが、その報告が42年の4月にまとめられている。その内容紹介。
トイレ、食事、掃除用具、ゴミ箱、居住環境、船倉の高さの実情(2.4メートルあるはずだったが、実際にはそれより低く、車両が入れなかった。そのため上甲板に並べる羽目になったが、その悪影響は甚大だったようだ)、デリックが足りない、防空能力が足りない、などなど。
複数の船に部隊を乗せるときどうするかという「乗船区分」も問題。一隻が被弾しただけで機能が失われては困るが、細かく分ければそれだけ混乱する。どう折り合いをつけるか。
昭和17年の時点でどのような分析をしていたかが分かるし、あまり対応できなかったという史実もまたある。