やっぱりすごいな、テッド・チャン。
情報に裏付けられた事実や困難に対して「知性」はどう対応するべきか、について様々な観点から書かれている。執筆のきっかけについては、巻末にノートが置かれていて、これがまた興味深い。
自己矛盾のない単一の時間線しか存在しないことを、数学的な分析によって示した。
(中略)
過去を変えられないことがかならずしも悲しみに直結しないようなタイムトラベルものが書いてみたかった。(商人と錬金術師の門)
われわれがそもそも存在できているのは、宇宙がきわめて秩序の高い状態で始まったからにすぎない。(息吹)
ホラー小説には、読んだ人間が発狂してしまう呪いの本がよく登場する。その非超自然バージョンは可能だろうか。(予期される未来)
AIが法的権利を獲得することは大きな一歩だが、人間がAIとの個人的な関係に心から努力することも、それと同じくらい重要(ソフトウェアオブジェクトのライフサイクル)
スキナーの娘は、健康的に幸福に育った。(デイシー式全自動ナニー)
ほんとうに正確な記憶が持てたとしたら、それは人間をどう変えるだろうか。(偽りのない事実、偽りのない気持ち)
もし人類がほんとうに宇宙創造の理由であるなら、相対性理論が正しいはずはない。違った状況では、物理学は違ったふうに振る舞うし、それは検知されるはずだ(オムファロス)
その距離の遠さは、かれがどういう人物だったかについて、なにがしかを物語っているはずだ。(不安は自由のめまい)
イーガンのあれやこれやと並べたくなるよなあ。
『偽りのない事実、偽りのない気持ち』は、サイバーロボトミー(格好良く「忘れられる権利」とか言う人もいるが)の問題と繋がる。実際には切り取り問題をどうするかという問題もあるけれど。