アダム・スミスが言うような、経済的な利益を求め、経済的な合理性に基づいて行動する人、というモデルがある。もちろんモデルなので、そのモデルでどのくらいのことが説明できるかという話になり、説明できないことが多いことが分かってきた。
本書のタイトルの「不合理」というのは、経済利益の追求という観点からは不合理ということ。本書は、そうした不合理をどういう実験で示したか、その理由をどう説明するかという行動経済学の事例集。「不合理にも理由があり、それはあらかじめ説明できる」というのがタイトルの意味。
とにかく個々の事例が面白く、「なるほど」と「やっぱり」と「そうなんだ」が混在する。
・取り違えや先入観の影響の強さ
・選択肢による答えの誘導、アンカリングの誘導
・反復行動の影響の強さ
・後から合理化
・無料の効果
・市場規範による社会規範の上書き(社会規範の適切な涵養の重要性)
・スシの魔法(最後の一つ残ったスシ)
・情熱(感情)の影響の強さ
・クレジットカードの使いすぎをどう防ぐか
・変動する報酬の方が影響力が大きい
・長期目標を達成するための目先の目標の強化
・所有意識
・選択肢を広げることに拘泥しすぎる問題(選択の自由という不自由)
・ステレオタイプの影響の強さ
・何も期待しないことの害
・不正直にも程度がある(チャンスがあるからと言って不正をするわけではない。ちょっとしたきっかけで不正は退けられる)
・お金かお金でないかで不正の敷居は異なる
目の錯覚について知っていても錯覚自体は防げないが、「定規で測ってみよう」という智恵を働かせることはできる。心の錯覚についても知っていることは重要だよ、ということ。