落ち着いたトーンのメタバース解説本。NFTの話は出てくるけれど、いわゆるweb3の話は置いといて、インタフェースとか活動空間としてのメタバースを説明している。
ビジネス革命もオフィス改革とか産業用デジタルツインのUIとしてのVRとかの観点が中心。「ゴールドラッシュで本当に儲けたのはリーバイス」のエピソードを踏まえて、周辺の話も抜かりない。日本の大企業とかが想定読者の一部なのだろう。
過去に何度かあった動きと今回の違い(Oculus Riftに代表されるデバイスの低価格化、開発環境の普及)とかも示している。
ゲームとメタバースの関係は当然深いのだが、それについては、
ゲームがメタバースの入り口になっているのだ。最終的なメタバースそのものではないが、「原初的なメタバース」として機能しているわけだ(No.516)
と解説。
オフィスワークの場としてのメタバースも会議のことだけでなく、「引きこもって仕事が出来る場」「習慣化(毎日使う理由の設定)」のことも指摘している。
HMDを中心とした技術課題も、「装着感」「実は動けない」「演算量と遅延」と整理している。
メタバース内のデータの作り方についても、スマホやゲームエンジンを使った手法も紹介しているけれど、結局は、作る環境をきちんとクリエイターに提供し、回すビジネスモデルを確立することが必要。当然だがここにも銀の弾丸はない。
面白いと思ったのが、以下の部分
メタバースとは人がAIの力に助けられながら生きるもの(No.1899)
レーシングゲームの「GT」がリアルと言われながらも実際にはアシストが入っていて、だから気持ちよく走れるわけだが、メタバースで気持ちよく活動するには、AIの支援が必須ということなのだろう。プライバシーの問題は本書でも指摘されているし、解決策としてのローカル処理というのも分かるけれど、これはアシストしてもらう方が圧倒的に利便性も快適性も高いわけで(学習してもらう必要もあるのだし)、ある程度はデータ共有の方向に進むんじゃないかな。Adobe Senseiをローカルだけで閉じるわけにもいかないでしょう。
で、最後は、
結果的に、デジタルデータの「物流」と「商流」を確保することが大きなビジネスになる(No.2210)
と。