- 作者: Scott Berkun,村上雅章
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 2007/10/29
- メディア: 単行本
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- ひらめきの神話
- わたしたちはイノベーションの歴史を理解している
- イノベーションを生み出す方法が存在する
- 人は新しいアイデアを好む
- たった一人の発案者
- 優れたアイデアは見つけづらい
- 上司はイノベーションについてあなたより詳しい
- 最も優れたアイデアが生き残る
- イノベーションは常によいものをもたらす
章のタイトルから中身が分かるものもあるし、微妙に違うものもある。基本的には、過去のイノベーションは現在の視点から解説され、これからのイノベーションも現在の視点から解説されるということ。そこには「イノベーションが起こる前か、後か」という決定的な違いがある。山のような失敗や飽きるほどの努力は面白くないから、過去のイノベーションについて語るときにはそれらが捨てられてしまい、未来のイノベーションについて語るときには失敗や努力が途方もないコストに見えてしまうということなのだろう。
多くの人達は自分達の習慣や視点を変えたくない。だから過去のイノベーションは現在に続く必然として捉え、それを起こした英雄を主役に据えることで自分達にとって受け入れやすい分かりやすいストーリーにしてしまう。未来のイノベーションについて否定的な立場を取るのも、イノベーションの大半が受け入れやすくないものだから。
一人の英雄がイノベーションを起こすというストーリーは分かりやすい。本書の最初の方にはeBay創業時にマスコミに気に入ってもらうためにストーリーをでっち上げた例が載っている。
彼らは個人が自由に取引を行える完全な資本主義に則った市場を構築するために起業したものの、そういった話はレポーターの興味を引くには高尚すぎたのです。しかし、創業者が、婚約者のためにPEZのディスペンサーを売買する場を作ろうとして起業したという、いわばラブストーリーをでっちあげたところ、レポーター達は初めて反応を示し、望み通りマスコミに取り上げて貰えるようになったのです。資本主義に則った市場の構築という本当の話は、恋人たちのもとに舞い降りたミューズの話ほど口当たりがよくなかったというわけです。(p.7)
一人の英雄が発明者であるという神話は、特許法という現在の法システムによって後押しされているという指摘は、なるほどと思った。
しかし、そういう神話では、イノベーションの本質は理解できない。それどころか間違った理解になってしまう。それは、イノベーションを受け入れる側にとっても、イノベーションを管理・利用する側にとっても、イノベーションを起こそうとする側にとっても不幸なことなのです。
特にイノベーターを嗜好する人がしばしば見落とす、受け入れて貰うことの重要性、失敗や努力や時間の必然性、越えなければならない難関、問題設定の重要性、も丁寧に解説してある。シュンペーターを読むのが悪いとは言いませんが、本書の方が我々には役立つと思います。
あとは、自分用に特に2つほど
- 「フィルターをかけるタイミング」が重要
- 「これは何?」ゲーム
本筋と関係無いエピソード
ロンドンにある大英博物館の古代エジプトゾーンでのことです。私はロゼッタストーンの回りをうろつきながら、警備員がよそ見をするのを待っていました。私が行動を起こしたのは、一人の子供があまり重要でない展示品の角でつまずき、警備員がそちらに気を取られた隙のことです。私は息を凝らしながら、金属製の柵から腕を伸ばし、震える指で石に刻まれた文字を触ってみたのです。(p.20)
今はガラスケースに入っているそうです。私も10年以上前に大英博物館に行ったときに触りたいのを我慢したのですが、やっぱり触っておけばよかったなあ、とちょっと後悔。(そういう人がおおいからガラスケースに入ってしまったわけですけど)