k-takahashi's blog

個人雑記用

新世界より

新世界より (上)

新世界より (上)

新世界より (下)

新世界より (下)

 呪力という超能力が一般化した世界。しかしその呪力は強力ゆえに厳しく使用を管理されていた。主人公達の住む集落神栖66町は周囲50キロメートルほどの大きさで人口は約3000人。その周囲は八丁標(はっちょうじめ)で区切られている。八丁標の外は危険な悪霊や妖怪の住む世界であり、無断で外に出ることは禁じられている。しかし、結界の中は、人々がお互いを信頼し合い、助け合う汚れなき世界。のはずであった。


 前半は主人公達の子供時代のエピソード。呪力を使えるようになり、結界の外に出かけることを許された一行は、当初の約束を破り、深い禁忌に触れてしまうことになる。
 後半は成人後に起こった人類存亡の危機となる事件の顛末。そして、最後に世界の謎の一端が明らかになる。
 上下巻で1000ページを越す長編だが、一気に読める面白さがある。


 世界の謎は幾つもある。まず「呪力」とは何なのか。これがある種の「超能力」であることは序盤に明らかになる。それが強力な力であるがゆえに、その管理は厳格を極め、ある種の宗教的な手続きを踏むことになっている。この描写がよい。それらの手続きがどのような理由で、どのような経緯で生まれてきたかというのが、この世界を知る鍵になる。そして、戒めの物語に現れる「悪鬼」と「業魔」。
 結界の外に住む様々な生物が気味悪くもまた面白い。全編にわたり奇妙な生物が次から次へと現れてくる。なぜ、それほどに異常な生物が存在しているのか、もまた世界の成り立ちにつながっている。


 この2つを背景にして、人類存亡の危機となる事件とその解決のための冒険が語られていく。
上巻冒頭で主人公は「自分の記憶が正確でない」と語る。そこを読んで、ジーン・ウルフか、と少々身構えたのですが、そんなことはありませんでした。描写の混乱は正確で、きちんとエンタテインメント小説の範疇に留まっています。本書はきちんとした冒険小説であり、冒険が行われる世界を創造するための発想法としてSFの方法論が使われている。
 なので、制度と生物の裏にあるモノは何かを頭の片隅におきながら冒険を楽しんで読めば良いのだと思う。繰り返しになるが、奇怪な生物の描写は実に面白い。


 個人的には、あれをああいう風に使えるということを彼はどうやって知ったのかというところと、主人公がそれに気付く場面とがちょっと納得いっていないんですが、小さな話です。上質な冒険SFです。あと、社会の管理者達が漢字に拘りがある、という設定なので、言葉や言い回しも読んでいて楽しいです。