k-takahashi's blog

個人雑記用

蒲生邸事件

蒲生邸事件 (文春文庫)

蒲生邸事件 (文春文庫)

主人公・尾崎孝史は、大学受験に失敗し予備校受験のため上京したホテルで火災に遭遇、不気味な暗い雰囲気を漂わす同宿の中年男・平田に助けられる。しかし平田に連れられて避難した先は、二・二六事件真っ只中の戦前の東京であった。
ホテルが立っていた場所に当時あった蒲生憲之陸軍予備役大将の館に身を寄せた彼は、蒲生予備役大将の自決に遭遇する。第二次世界大戦へと走り始める当時の日本の将来を予言するかのように、「この国はいちど滅びるのだ」と遺書を残して自決したことで知られる蒲生予備役大将。現代に戻ることに失敗した孝史は、その場の状況から事件性を感じて犯人探しをはじめる。

蒲生邸事件 - Wikipedia

第18回日本SF大賞受賞作なんだけれど、タイムトラベラーの家系が登場する以外はそれほどSF味は強くない。人と歴史の対比とかも、それ自体はそれほど新味はない。
それよりは、「現代人が戦前を語るとは?」という批評視点の置き方を問うている一冊。
主人公の孝史は、しばしば当時の人達を見下す態度を取っている。ところが、読者(本書を読むような読書の大半は、226事件の概要くらいは知っているだろう)から見ると、孝史もまた不勉強で(悪い意味で今風の)若者に過ぎず、かなりとんちんかんな行動を取っている。孝史→戦前日本人、読者→孝史、の二重構造が「人を評価すること、人の行動を評価すること」ひいては「歴史を評価すること」はどうあるべきか、という本書のテーマに繋がっているのだろう。


 チャンの「錬金術師の門」と違って、本書では歴史は「微妙に変わる」。結果として、ある歴史的文書は、物語の冒頭では貴重な文書だったのが、物語の最後では存在しない文書になってしまっている。この辺の小ネタは、流用できそうなアイディアだなあ。


 あと、226事件の有名な「下士官兵ニ告グ 今カラデモ遅クナイカラ原隊ヘ帰レ」が終盤うまく使われてた。ここから小説全体を組み立てたのではないかと思ったくらい。