k-takahashi's blog

個人雑記用

火星縦断

火星縦断 (ハヤカワ文庫SF)

火星縦断 (ハヤカワ文庫SF)

 20世紀SF*1所収の一作に「日の下を歩いて」(A Walk in the Sun)という作品がある。太陽電池で宇宙服のエネルギーを供給しているので常に昼の側にいないと死んでしまう、という状況下で乗り物が壊れてしまい、月面を歩いて一週(半周だったかな?)する話である。


 同じ作者が、今度は火星を歩いて縦断する話を書いた。それが本書。


 今回も見所は、不気味なほどのリアリティ。
我々日本人も、「のぞみ」や「はやぶさ」では、山のようなトラブルが次から次へと降りかかり、それをぎりぎりの状況で乗り越え、迂回する様を見てきた(そして、「のぞみ」は最後にはミッション断念となった。「はやぶさ」は今でもぎりぎりの綱渡りを続けている)。あの雰囲気が小説化されたと言えば、イメージは伝わるだろうか。塵・腐食・摩耗・熱、などが容赦なく襲ってくるのである。


 一方で、物語を盛り上げるために各登場人物の背景(結構、屈折しているのが多い。)も語られている。これはこれで面白い(決して明るくはない宇宙開発の将来、という点からも)のだが、火星環境の過酷さを語る部分からすると少々落ちるように思う。
悪意やエンディングについても、悪いとは言わないがちょっと不足かな、と感じた。


 が、面白い。特に、「のぞみ」や「はやぶさ」のトラブルと対応に一喜一憂し、宇宙の過酷さに溜息をついた人なら楽しめると思う。

*1:

20世紀SF〈6〉1990年代―遺伝子戦争 (河出文庫)

20世紀SF〈6〉1990年代―遺伝子戦争 (河出文庫)