k-takahashi's blog

個人雑記用

報道できなかった自衛隊イラク従軍記

報道できなかった自衛隊イラク従軍記

報道できなかった自衛隊イラク従軍記

 とにかく著者である金子貴一氏の誠実な姿勢が伝わってくる一冊。

 なぜ、生命の危険がある任務を受ける気になったのかと問われて、金子氏曰く、

私は、この四半世紀ずっとアラブにお世話になってきました。今回の派遣がアラブのためになるなら、命をかけても行きたいと思ったのです。
 それから、アラブと日本ではかなり文化が異なっています。自衛隊がよかれと思ってしたことでも、もしかしたら、彼らには違う意味に取られ、最悪の場合には生命の危険すらあります。そういったことが起こらないように、異文化間コミュニケーションの橋渡しができるのではないかと考えたからです。


 基本的には金子氏の異文化間コミュニケーションの苦労話が書かれている。ここで注意しなくてはいけないのは、金子氏と自衛隊の間の異文化交流と日本とイラクとの間の異文化交流とが二重になっているところ。そういう二重の苦労の中、必ずしも全てがうまくいったわけではないことも包み隠さず紹介しつつ、自分の信じるところ思うところも丁寧に語ってくれている。

 ミリタリー興味よりも、対外援助・支援のありかたがどうあるべきかという視点で読む方が得るところが大きいと思う。イラク側の日本に対する誤解みたいなものも、ちょくちょく顔を出すし、短期的解決、中期・長期的解決の塩梅に悩むところとかは、イラクに限らない。いや、下手をすると国内ですら、この塩梅に苦労するようになってきている。過剰な期待、権利意識、その種の齟齬を利用しようとする連中、などなど。


 これがイラク独自の事情なのか、アラブ全般なのか、途上国全般なのかは分からないが、契約や約束が徹底的に「人対人」の枠組みの中で捉えられているのが興味深かった。金子氏の前任者が言ったことでも「彼がいなくなったから仕切り直し」と称して発言が無かったことになった部分には少々唖然。法や契約という概念が希薄なのが分かるが、一方で彼らの状況を考えればある意味で当然の対応でもある。

 基本的人権ではなく、基本的部族権と考えるというのも面白かった。姦通した女性が部族員に殺されてしまうというエピソードを紹介していたが、これなどできものを切除する感覚なのだろう。昔の日本の「家」なんかも多分こういう感覚だったのではないか、とも思った。


 自衛隊について、という観点からはマスコミ対策に四苦八苦している様子がうかがえたのが興味深い。それは、金子氏のような人にまで余計な苦労を強いることになっていたわけだが、どうせ反省なんかしないだろうな>マスゴミ

 また、軍隊、というか大きな組織、大規模な活動、というものを金子氏が今ひとつピンと来ないまま活動している様子も、逆の視点から興味深かった。頭の悪いマスゴミあたりだと、馬鹿な記事を書いてしまうところなのだが、この辺はきちんと書けるところはさすがだなと思った。


 一つ知りたいのが、自衛隊が金子氏を選ぶに至った経緯。勿論、表だって明かされるはずはないのだが、どのような候補者がいて、どういう基準で氏を選んだのか、というのが気になった。結果として、よくぞこの人をという感じだったようだけれど、普通に考えたら、元ピースボート講師、なんて危なくて呼べないと思うのですよ。(仮に当人がまともだったとしても、変なのがくっついていたりする危険があるわけで。)