k-takahashi's blog

個人雑記用

火星の長城

 レナルズの啓示空間宇宙史シリーズの第一短編集。テクノロジーの進歩と宇宙進出により、人類は大きく3つの種に分化していく。宇宙環境に適応するため身体を徹底的に機械化するウルトラ族。脳に大量の機械を埋め込み、精神ネットワークによる超啓蒙意識を形成する連接脳派。改造については両者の中間的位置にあり、脳内インプラントにより無意識レベルでコミュニティの政治意思決定を行う無政府民主主義者。
 本短編集では、連接脳派の太陽系脱出や、各派の軋轢などが語られている。


 各派の軋轢という点では、「ウェザー」が面白い。異なる価値観に生きる人々の物語で、淡い恋的なものも描かれており、とっつきやすい。


 5本目の短編「ダイヤモンドの犬」には、シルベステやカズム・シティという単語も登場し、シリーズの背景という点からも興味深い。しかし、それ以上にこの作品では、環境に対抗するための肉体改造というシリーズの根本設定の一つを、特殊な環境とそれに立ち向かう狂的な熱意という点から凝集して描いている。粗筋だけだと狂気とグロテスクさを追った作品に見えるかもしれないけれど、シリーズ世界観の結晶と捉える方が当たっていると思う。