十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。 (新潮文庫)
- 作者: 遠藤周作
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/08/28
- メディア: 文庫
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実際に書かれたのは昭和35年(1960年)。結核再発で入院中に書かれた原稿なのだそうだ。
そう思うと、作中の「病人への手紙で大切な一寸したこと」というのが興味深くなる。
- 月並みな文句は書くな
- 病人をイラだたせ、ヒガますことを書くな
- 病人に同じ病気の人の不幸を書くな、同じ病気の人の全快を知らせよ
(p.87)
とかは、まさに本人の実感でもあったのだろう。
ということで、タイトルからは分からないけれど、本書の内容は「手紙を書くコツ」。
「手紙を書くときは○○○の○になって」
この見出し題の○の中に適当な言葉を入れて下さい。適当な言葉が入れられた方はそれだけでもう手紙の書き方の根本原理をご存じの方である。もう読み続ける必要はありません。こんな本は古本屋に売り飛ばして、そのお金で今川焼きでも買って下さい。だが○○○の○がわからぬ方は仕方がない。気の毒ですがもう少し読んでいただきましょう。(p.34)
遠藤氏は、この答えを明かした後に、様々な実例(悪い例、良い例)を用いて、この答えを実践する方法を提示している。単なる心構えだけではなく、ちょっとした表現技法(「あたし」を「あたしたち」にする、など)も書かれている。もちろん、電子メール時代の現在には直接当てはまらない部分も多いが、参考になる部分も多い。
例えば、筆無精の解消方法として遠藤氏があげているのは3つ。(p.33)
- 便箋、封筒、切手を身の回りにいつも用意しておくこと
- 趣味のよい便箋、封筒を使って手紙を書くことに楽しみを持つこと
- 便利な葉書をいつも鞄やハンドバッグに入れ、外出先の途中で大いに利用すること
ちょっと考えれば、電子メールにも当てはまる。出せるようにしておくこと、ちょっとした飾り(携帯ならデコメテンプレートあたりか)、出そうと思ったらすぐ出せるようにしておく。そういう意味では、なんのかんの言われるけれど、携帯メールを手早く出すというのは、その文書に稚拙なものが多いことはさておき、筆無精解消方法としては適切なのだろう。
また、ラブレターの断り方、お悔やみなど、気が進まないシーンでの書き方は今でも通用する心がけだと思う。
ちなみにラブレターンの断り方の心得は以下の三つ。
- できるだけ明瞭に自分の心理を相手に伝え
- その責任を他に転嫁せず
- 相手の好意を認めながら誠実に返事をしたためる
一つ書き方指南として面白いのが「ようなゲーム」。例えば、「夜の空に星は≪≫のようにきらめいていた」という言葉の≪≫に入れるゲームである。ただし条件があり
- 普通、誰にも使われている慣用句は使用せず
- しかもその名刺にピタリとくるような言葉を使わなくてはならない。
一月やれば、本の読み方が変わり、文書が書きたくなるという効果が出るそうです。