- 作者: 猪瀬直樹
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/06/01
- メディア: 単行本
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ということでさすが作家が本職だけあって文章はうまい。
真下から仰ぐと新宿の超高層ビルの頂きは、大道具係がつくった映画の書割のような白い雲と青い空に縁取られている。棒状の建物が「ワタクシは近代の産物です」とわざわざ主張しているような、芸のない姿だから空まで間が抜けて見えてしまう。
太宰治は『富岳百景』で「富士には月見草がよく似合う」と書いた。峠の茶屋で「油時なんか、あんな俗な山、見度くもない」「ほていさまの置物」とぶつくさ言っていたが、ふと路傍に咲く鮮やかな黄金色の月見草に気付いて、「けなげにすっくと立っていたあの月見草は、よかった」と思い直す。すると「月の在る夜は富士が青白く、水の精みたいな姿で立っている」ことに気づくのである。
ならば巨大な垂直の長方形の無機質で虚無的な物体には、何が似合うのだろう。(p.5)
内容は、水ビジネス、参議院宿舎、周産期医療、ケア付き賃貸、夕張問題、羽田国際便、営団と都営、オリンピック誘致問題、太陽光パネル、高速道路無料化問題、など色々。賛否はともかくとして、猪瀬氏が問題をどう切り取って、どういう解決を指向したのかは分かる。東京という都市の今を考えるヒントが具体的に書かれている。
問題がいきなり小さくなるが、猪瀬氏が参加するようになった昼食会。ところが弁当が冷たくなっている。
「どうしてこんな冷たい弁当をみな平気で食べているんですか。箸でつつくとご飯が硬くて、おにぎりを突き刺したような大きな塊になるじゃないか」
石原さんがキョトンとして聞いている。
「冷えている鰻重なんて、駅弁でもめったにない」
すぐに調べた。恐れ多い石原閣下のために粗相があってはならじ、と昼食会は12時15分からなのになんと午前11時に鰻重が7階の会議室に運ばれていた。(p.56)
ポイントは「すぐに調べた」のところ。他の問題もこのパターンである。官僚とやりあうエピソードも面白いが、根底にあるこの姿勢があってのことなんだな、と。
タイトルの脇に付けた「首都公務員」は、
”首都公務員”である東京都の職員に求められるのは、100点満点ではなく120点満点の目標だ。地方公務員として東京のためにただ一所懸命はたらくだけではなく、プラス20点分は国民のため、日本全体のためにはたらいてもらいたい。そのためには複眼的な視点が必要になる。東京生まれで地方を経験していない人はどうしても地方を見下ろしがちだが、東京からだけではなく、地方から見なければ、日本全体や世界の中での東京の位置、自分自身の存在も見えてこない。(p.103)
別に公務員に限らない話だと思う。会社員でも、専業主婦夫でも。