k-takahashi's blog

個人雑記用

アメリカ陰謀論の真相 〜なぜ「911陰謀論」はすぐに廃れたのか?

アメリカ陰謀論の真相

アメリカ陰謀論の真相

他の国と比べてどうなのかは知らないが、アメリカ人が陰謀ものを好きなのは事実のようで、それが「Xファイル」とか様々なハリウッド映画とかの基盤にもなっている。
とは言え、お遊びとしてならいざ知らず、どうしようもない陰謀ものを本気で信じ込むような態度は「反知性主義」の現れと言われても仕方が無い。それが、どれほどしょうもないかを解説している。
なお、テーマは、日本人向けということで、真珠湾、世界戦争、ケネディ暗殺、ベトナムMIA、タイタニックキング牧師暗殺、ロバートケネディ暗殺、ウォーターゲート情報源、ガイアナ人民寺院911、となっている。


一番力の入っているのがケネディ暗殺陰謀論で、約90ページ、本書の3分の1を占めている。オリバー・ストーンも含めて、様々な種類の陰謀論を紹介し、それがどのようなインチキなのかを丹念に解説してくれている。
いわゆる「魔法の銃弾」が写真撮影の方向を特定することで作られたトリックであることや、ノールの狙撃手説に意味が無い(そんなところからは撃てない)こと、ティピット殺害事件の明確な証拠を陰謀コミュニティが隠蔽していること、などなど。
また、陰謀論業界の取り回しの解説が充実しているのも楽しい。誰がどこからネタを引っ張り出し、どのように加工したかも書いてある。この手のこだわりは、陰謀検証本を読む楽しみの一つだとも言えるわけで、この充実さは嬉しい。
あと、KGBも余計なことしているなあ、とか。(わざわざニセ証拠を作って送りつけ、騒ぎになると外電として紹介する始末。)


陰謀論業界人「マーク・レーン」という人物の紹介も面白い。JFK暗殺、キング牧師暗殺、人民寺院ロバート・ケネディ暗殺と、美味しいネタを渡り歩き、著書は売れたり売れなかったりだったそうだが、著者によれば「陰謀論がおいしいビジネスになることを示した元祖」だそうだ。


最後が911陰謀論で、よく知られているとおりメチャクチャの限りを尽くしていたが、一時期「爆破解体」というのが流行っただけで、早々に衰退した。これについては著者は、

アメリカで911陰謀論をを説いたメンバーは、過去の諸陰謀論メンバーと比べ、強引さとレベルの低さが目立った。多数の人が参画したからと言って運動のレベルが上がるわけではない。参加者は増えたが山の頂は下がり、それが911陰謀論の墓穴を掘ったのだ。(p.266)

と分析している。本書を読んだ感想だと、ケネディ暗殺陰謀論911陰謀論も五十歩百歩に見えるが、実際にはかなりレベルが低かったようだ。


さて、本書の紹介されているしょうもない陰謀論を読んで笑うのは当然なのだが、陰謀論の商売パターンというのは、実は今の日本でも活用されている。資料の曲解や意図的なトリミング、恣意的な情報の扱いなどなど。本書中には、きくちゆみベンジャミン・フルフォード梶川ゆきこ藤田幸久、などのよく耳にする名前も登場するが、それ以上にパターンの問題である。

過去、アメリ陰謀論は権力告発や真相究明の形を取って現れてきた。20011年の日本で似たことが起きるとすれば、間違いなく原発を巡るケースだろう。告発や弱者救済の中に混じるバグ、誤謬、偽情報を選り分け排除し、より正確な情報を選別することは市民のためであるが、現実にはなかなか難しそうだ。
情報産業が隆盛の現代でも、イプセンの古典『民衆の敵』が描き出した人々の姿は変わっていない。陰謀論者は人々の不満に付け込み不安を煽り、嘘偽りを並べ立てて商売にしてきた。陰謀と陰謀論を分けるものは非常にシンプルで、それが事実かそうでないかだけだ。我々はいまだにそのことが実践できていない。(p.301)

実際、著者は、ある陰謀論者が911のインチキ映画を紹介たことを批判されたとき、「私は今はもう311にしか興味がなくって、もう911には興味がないんです」と応えたというエピソードを紹介している。上述のマーク・レーンみたいな人が日本にもいるんですね。