k-takahashi's blog

個人雑記用

ブラッド・ミュージック

グレッグ・ベアの代表作。
ナノテクを正面から取り上げた最初期の作品と言われている(1985年!)。ニューロマンサー1984年)と同時期だと言えば、いつ頃か想像しやすいだろう。


古い作品なので、以下、ネタバレ上等でいきます。


基本的なストーリーは、シリコンバレーの科学者が知性を持った細胞を作り上げるが、会社から実験成果の破棄を命じられてしまう。開発した科学者は隙を見て、その細胞を自らに注射して持ち出す。それが広がっていく、という話。


この細胞からみると人間はマクロな存在ということになり、言わば人類が宇宙を見るような感じで人間を見ることになる。この圧倒的なスケール感の違いにもかかわらずある程度のコミュニケーションは成立していくところが面白い。
しかし、この細胞(ヌーサイト)はやがて世界を変えていく。世界を変える原動力は圧倒的な量。細胞一つが人間一人以上の能力を持つのだから、一人の人間の中の細胞だけで全人類の数に匹敵することになる。それが数億。
ここから先はイーガンを思わせる部分が多く、化学反応としての感情、情報記号化する人間、膨大な計算力によるヴァーチャル(仮想/実質)な世界の再現、多くの観測が為されることにより世界を変えていく、などと大技な展開が続く。
「丘が動く」描写なんかも、細胞の集団が実世界を変えていく表現として面白い。
ラストはややぶんなげ気味かな、といったところだが、不満はあまりない。


巻末の解説では、クラークの『幼年期の終わり』との対比が語られていたけれど、今読むとシンギュラリティとの親和性の方が高いかな、と感じる。


王道的なSF的設定・展開をする一方で、結構ウェットなエピソードも多く、ゾンビものやパニックものとしても読むことができる。
オールタイムベスト級の作品と言われるのにも納得。面白かった。