ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)
- 作者: 藤代裕之
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/01/17
- メディア: 新書
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あれはどういう経緯を経て生まれてきたものなのか、といのを特に従来メディア視点を中心ににまとめた一冊。
Yahoo! 、LINE、スマートニュース、日経、ニューズピックス、といった辺りのサイトのそれぞれ一章ずつ割いていて、そこが結構面白い。紙にしがみついてもじり貧なのは明らかだが、ではどうするのかという苦労エピソードやウェブ・ソフトの側からどうやってアクセスと利便性を両立させるかの苦労とかが満載。
そういう意味では日経のところがやはりお薦め。
パッケージが死ぬかどうかは、メディアの特性による。日経の場合、パッケージは死なない、と分析する。
その理由は、読者の違いにある。
日経は忙しいビジネスパーソンが主要なターゲットだ。短期間でいま起きているビジネスに関するニュースを掴みたいというニーズがあり、いかに読む時間を減らし、サイトから離れてもらうか、という考えも重視している。
(No.1960)
西田は、課金によって有料ニュースと無料ニュースの壁を作ることのリスクがあるという。
「日経と同じように課金を進めるウォール・ストリート・ジャーナルでは、記者がせっかくツイートで広めても、記事は有料の壁(ペイウォール)の内側にあるので多くの人は読むことができない。そこで、無料のニュースサイトが、ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えるところによると、と適当に要約したり、まとめサイトが都合良く記事を切り取ったりして、めちゃくちゃな内容が広がっている。
(No.2008)
終盤は、どうやって社会的使命とビジネスを両立させるかという話になり、それを「猫とジャーナリズムと偽ニュース」という章にしている。それを「メディアとプラットフォームの境界があいまいになったことが偽ニュース蔓延の理由」と捉えている。
ただ、ここら辺りを読んでいると、やはり藤代さんも向こう側のひとなんだな、という印象を持った。あのおぞましき「記者は正義」というのがチラホラみえる印象を持ってしまうんですよ。(藤代さんは、むしろそうならないように注意して書いているとは思う。ブログ記事の流用とかの話は、既存メディアvsネットメディアという構図では語れない。ただ、それでもやはり「向こう側に軸足がある」ように感じた。)
ネット上ではメディアとプラットフォームの堺が曖昧になり、そういうところから生まれる偽ニュースが多いのは事実だが、じゃあ、悪影響の酷さという点で既存メディアがばらまく偽/誤報/偏向/捏造ニュースと比べてどっちの問題がどのくらい大きいの? ネット発によって検証・修正された既存メディア偽ニュースと比べるとどうなの? いう辺りがすっぽり抜けてる。
程度、頻度、直接・間接という辺りは様々だけれど、ほとんどの人は既存メディアの偽/誤報/偏向/捏造ニュースの被害を受け、そして泣き寝入りを強いられた経験がある。そういった横暴に対してやっと我々が手に入れたのがネットという技術。その視点が本書にはない。
まあ、今回はWELQ騒動を受けてのことだろうし、藤代さんのことなので別の本を書いてくれるだろうとは期待している。
でも、5年前に『閉じこもるインターネット』*1という本がとっくに出てたんだよなあ。
*1: 閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義