k-takahashi's blog

個人雑記用

The Lost Tomb of Jesus

 邦題は、「キリストの棺」。2007年にジェームス・キャメロンがプロデュースしたセミ・ドキュメンタリー。1980年にタルピオットで発見された紀元1世紀頃(骨箱を用いる習慣があった時期は極めて短いので時期はほぼ正しい。)の墳墓(この墓はマンション建築現場で見つかったものであるため、その後封鎖されている。)が、実はキリストの墓だったのではないか、という説を番組にまとめ上げたもの。番組の最後に「これはまだ仮説であり、判断は視聴者に委ねる」旨の注意が入っている。


 骨箱の一つには「ヨセフの息子イエス」と書かれている。これならすぐにでも騒ぎ出しそうなものだが、そうはならなかった。主な理由は2つで、一つは当時墳墓が大量に発見されていたこと、もう一つはヨセフもイエスも当時のエルサレムではありふれた名前だったこと。では、番組はどういう理由からこれをイエスのものと考えるのか?


 理由の一つは、他の骨箱に書かれていた名前。マリア、マタイ、ヤコブなど福音書に書かれている内容と一致しており、これが偶然の一致である可能性は数百分の一程度であること。但し、親子家族の名前が独立であることが前提であって、実際には親子の名前には相関があるのが普通だから、ちょっと論拠としては弱い。
 もう一つ、マグダネラという名前が刻まれた骨箱がある。制作者等は、これがマグダラのマリアだろうと推測し、イエスと書かれた骨箱の中身とDNA鑑定を実施した。古い資料のため、ミトコンドリアDNA鑑定のみが実施できたが、その結果は、無関係。つまり、少なくとも母子や同母兄妹ではないと。これも福音書の記述と一致する。ただ、これも当時の習慣一般と比較しないとなんともな、と思う。


 この後番組はアクロバティックな展開になり、イエスの息子ユダと書かれた骨箱があることから、マグダネラとイエスが夫婦であり、ユダは身の安全を図るため名前が伏せられていたのだという話になる。フィクションのネタにするなら充分だと思うけれど、学術レベルに持ってくるにはちょっと穴が多すぎるような気がする。
 最後は例によって、当局がそれ以上の調査を禁止したため終わり、と。



 ドキュメンタリーとしてはちょっと展開に無理があるかなという印象。ただ、マグダラのマリアの再評価の話は知らなかった。当時は使徒や弟子に男女の別はほとんどなかったのが、カトリックの都合で必要以上にマグダラのマリアの役割が下げられたのではないか、という話は、面白いと思った。(で、その際に、他の女性のエピソードとごっちゃにされた、なんてのはいかにもありそうな話だ。但し、これは、非正統福音書の扱いが絡んでくるので、本当のところはよく分からなかった。)