k-takahashi's blog

個人雑記用

マッカンドルー航宙記

日々、マイクロブラックホールと戯れる変人科学者、マッカンドルー博士。奇矯な性分で知られるこの男こそは、太陽系でも最高の頭脳を持つ天才物理学者であった。やがて彼自身が開発した画期的な航行システムの宇宙船を駆り、相棒の女船長ジーニーと共に大宇宙に乗り出すが
(帯より)

 なんというか、とんでもない話である。
高加速度、ストーリー中に出てくるのは100Gだが、人間はこの加速度に耐えることはできない。SFではよく、慣性を中和するとか、特殊な空間に入るとかして解決されるのだが、マッカンドルー博士は一味違う。相殺航法と呼ばれる彼の技術は、等価原理を利用する。宇宙船に高密度物質からなる円盤を備え、宇宙船の加速度に合わせて居住区画をこの円盤に近づけたり遠ざけたりするのである。10Gで加速するときは、10Gの重力がかかるような位置に居住区を持ってくれば居住区にかかるGはゼロになるというわけだ。うまい手である。


 勿論、うまい話には裏がある。「そんな巨大な質量を100Gで加速するエネルギーはどこからもってくるのだ?」という問題である。シェフィールドはしれっと「真空からエネルギーを取り出す」という方法でこの問題を回避してしまっている。この手の馬鹿話は大まじめな顔をしてやるほど面白いのだが、本書の科学考証部分はかなりまじめ顔である。つまり、面白い。短編内に出てくる色々なアイディアもこの類であり、かなり笑える。個人的には放浪惑星の一瞬の変貌が楽しかった。


 収録短編の中には、世代宇宙船や、惑星規模の大量殺人者、オールト雲内の生命や放浪惑星(特定の恒星に属せず、宇宙をさまよう惑星)などのネタがあり、斬新ではないものの面白く料理されている。登場人物はかなりステレオタイプ的だが、アイディアを面白くストーリーにするということを考えると、深い人間洞察などどうでもいい話である(特に短編では)。