k-takahashi's blog

個人雑記用

エヴリブレス

エヴリブレス

エヴリブレス

 科学と文学の狭間で苦悩するSF作家瀬名秀明。 氏が、TOKYO FM用ラジオドラマの原作として書き下ろしたもの。
セカンドライフのものすごい版とでも言うべき「BRT」。その中には、いわば自分の分身を置くことができ、分身はプレイヤーの介在が無くても半ば自立的にその世界で生きていくことができる。そんな世界で繰り広げられるラブストーリー。ただどちらかというと「愛と憧れ」という印象の方が強かった。

 「BRT」は、現実世界の人間の行動ログを「BRT」世界内のキャラクターに反映させる仕組みになっている。作中では「共鳴」と命名してある。「BRT」世界から現実世界への明示的なフィードバックは無いけれど、「共鳴」という言葉で、暗にそれを示しているのだろう。仮想世界内人格と現実世界人格との関連のとらえ方の世代間ギャップで、「憧れ」を語ろうとしているようだ。


 正面切ったSFにしないように書いたのだとは思うけれど、それがうまくいっているのかどうかはよく分からない。SF好きの観点からは、もう少し世界を語って欲しいところではある。
 実は、冒頭の部分がかなり叙情的に書かれていて、居心地が微妙に悪かったです。生命とか物理とかの話が出てきて、ちょっとホッとしたりしました。私はそういう読者なので、世界語りに不足を感じたのでしょう。多重分割された「BRT」世界と現実世界とを対等に生きる若者にとっての「初恋観」みたいなところをもう少しつっこんで読みたかったけれど、さすがに本筋が逸れてしまうか。


 ちなみに、本筋とは全然関係ないのだけれど、

 範子の会社数年前まで流麗なグラフィックのゲームを連発して破竹の勢いだったが、当時の重森尚という社長がフルCGの映画に意欲を燃やし、巨額の制作費をつぎ込み、失敗してしまった。(p.67)

どこのスクウェアですか、と思って爆笑。ちなみに、小説世界では、この重森氏が「BRT」の開発者です。