k-takahashi's blog

個人雑記用

TAP

TAP (奇想コレクション)

TAP (奇想コレクション)

 イーガンの短編集。
 表題作のTAPは、"Total Affect Protocol"という架空のインプラントのこと。人間の脳が主観的に識別可能な状況は”たったの”十の三千乗ビットでしかなく、TAPはそれを言語化することができる。TAPユーザは宇宙の中で人が体験できる可能性のあるあらゆるものを100パーセント忠実に、リアルタイムで伝達することができるのである。
そのようなTAPユーザは世界でまだ9万人しかいない。その中でも最も熟練したTAP話者の一人が死んだ。主人公は、その死因の調査を依頼される。
 ストーリーの途中で、TAPを子どもが使うことを認めるか否かの論争が起きているという描写があり、「ケータイやネットの話と変わらないなあ」と思いながら読み進めていったら、最後のオチのでひっくり返った。TAPの真の力は言語化の部分ではなかったわけか。
 ある意味で、シンギュラリティ前夜なSFでもあるな、これ。


 「銀炎」では、ある致死性の病気が流行っている世界が舞台。あまりにも病状が激烈なため大流行にはなっておらず、誰かが発病したら、接触した可能性のある人物を数日隔離しておけば、罹患していれば発病、発病しなければ大丈夫とすぐにわかる。患者を生命維持装置に繋いでおけば生き延びさせることは可能だが、治療は不可能。
主人公は疫学の専門家で、未知の感染が起こっている可能性を知らされ、その調査に赴く。
 縁者の感染を必要以上に気に病む人がいる一方で、この病気を「祝福」と捉えるカルトが存在する奇妙な状況下で、彼女は感染経路を探っていく。
 イーガンらしいテーマと、バイオ系の描写が興味深い一作。ただ、インフルエンザ陰謀論者とかホメオパシーカルトとか見ているとしゃれにならないようにも感じる。


 「ユージーン」とか「森の奥」とかからは、後の長編に繋がる要素が見える。「要塞」のオチにはびっくり。まあ、確かに可能そうに見える。