k-takahashi's blog

個人雑記用

軍事研究2010年10月号

軍事研究 2010年 10月号 [雑誌]

軍事研究 2010年 10月号 [雑誌]

 特集は軍事演習。福好昌治氏、藤井非三四氏、小泉悠氏が、米韓演習、ロシア演習について解説している。
 軍事演習が持つ抑止効果の実例付き指摘が面白い。今年の演習(米韓軍による海上演習)がどの程度の効果を持つのかを評価して来年どうするかを検討することになるだろう、と指摘している。

もし、今回のような応急的かつ個別対処のFTXでは効果が薄いとなれば、やはりチーム・スピリットやフォール・イーグルのような大規模かつ定期的なものを再開するべきだとなるのが理屈だが、ともかく今回の海上演習の効果を確認してからの話となるだろう。(p.50)

 演習の記述でもう一つ面白かったのが以下の部分。朝鮮戦争直後(1955年)の演習についての記述なのだが、

三年もの実戦経験がある連中がやる演習なのだから、その出来映えは満点以上のはずだが、どうもそうではなかったようだ。猛者ぞろいだから、演習の規定を無視しがちになる。実際にやってみたかったが、命がいくつあっても足りないから我慢していた動作や戦法をやってみせて得意になる。勇ましそうに見える方が評価が高くなるだろうと思い込む。そんなことで、北朝鮮に見せつける整斉とした演習というものは、実は実戦経験者の多くが軍から去った八○年代以降とするのも分からないでもない。(p.43)


 同じく韓国関係で菊池雅之氏の38度線観光ツアーの記事も面白かった。高速道路の所々にちゃんと有事対応の準備が見つかるというのだ。

  • 道路沿いに有刺鉄線が張られている。
  • 偽装網が見えてきたので、目を凝らしていると、中にはK200装甲車
  • 橋脚部分を破壊し、コンクリートを地面に落として道路を塞ぐ仕組みこそ簡単な障害

など。


 「第1特殊武器防護隊初の師圃訓練検閲」(芦川淳)は特殊武器防護隊の訓練レポート。実際に機材や人を動かしての訓練となるとやはり貴重な機会ということになるらしい。風向きを気にしながらの設営開始から、実際の除染作業の紹介まで面白い記事だった。目に見えない化学・生物兵器に対応するための細かな手順とか(いつまでマスクを付けているのか、など)。


 「IRD、イギリスのプロパガンダ機関」(橋本力)は、イギリスが冷戦時代に活用していたプロパガンダ機関。ブラック・プロパガンダ(嘘をばらまく)、ホワイト・プロパガンダ(公式発表)、の中間にある「グレー・プロパガンダ」というのがある。情報源を明らかにしないが内容は基本的に事実であるようなもので、IRDは主にこれを担当していたのだそうだ。
二次大戦の経験でBBCの放送が一番効果的だったことから教訓を得てのものだった。
イギリスの場合、単なる対ソプロパガンダだけでなく、自国の利益のために対米宣伝も必要だった(米国がモンロー主義化しては困る)というのは、なるほどと思った。チャーチルの「鉄のカーテン」スピーチも、このグレー・プロパガンダの一環としてとらえられるのだそうだ。

 IRDの”秘密投票”から算出される予算の一部は、”反共産主義”志向である出版物の大量購入と、海外の大使館や領事館などを介しての大量配布に充てられていた。多くの出版物は、海外の公立の学校や大学に無料で配布され、IRDは”反共産主義”志向の出版物を広めるために各言語への翻訳を推奨し、支援を行っていた。
IRDと文化人の繋がりでもっとも話題となったのは、「史上最高の文学者の一人」として称えられるジョージ・オーウェルであった。(p.227)

こういう活動はむしろやるのが当然なんだろう。そして、現代日本もまたこの手の活動のターゲットになっているはずなんだよね。


 そうそう、編集後記を読む限り、軍事研究編集部は先日の在日米軍司令部作成のマンガはお気に召さなかった模様。