k-takahashi's blog

個人雑記用

ゲームシナリオのためのファンタジー事典

 ファンタジー世界では魔法が使えます。それは現実にはありえないでしょう。でも、魔法が使える理由を明らかにし、社会に魔法が溶け込んで自然に存在しているように設定することで、虚構と感じられないようにすることは可能なのです。
 リアリティは、ディテールの積み重ねで増すことができます。そのために、現実の歴史や文化を利用するのです。
 本書は、ファンタジーのストーリーを創作するときに、知っておいてほしい歴史・文化・お約束を事典形式でまとめたネタ帳です。特にゲームと相性がよいと考えられるネタを集めています。(はじめに、より)

 という意図でまとめられた一冊。全110項目、1項目見開き2ページで簡潔にまとめている。特に凄いと感じることは無かったけれど、上記引用した製作意図がきちんと貫かれており、「ゲームに使うには」という指摘が常になされている。
 例えば、「002 中世ヨーロッパ」には

この時代、旅をする人は例外的です。RPGのキャラクターのような、国から国へと旅する人々はわずかです。だから、宿と言った旅人のためのサポート設備も少ないのです。(p.4)

世界を危機から救うと言った、RPGのシナリオによくある最終目的は、理解できなかっただろうと考えられます。世界は、領主達にとって大きすぎてピンと来ないのです。「魔王を倒して世界を救ってくれ」という王様は存在できないということです。(p.5)

この辺は、近世ヨーロッパにならないと存在しないわけです。別にゲームにこのリアリティを持ち込む必要はないのですが、「ここを踏まえて考えましょう」というチェックポイントにはなる。


 一つ知らなかった話が「099 道」にあったので、ちょっと引用。

 ファンタジー小説ドラゴンランス』に登場する「憩いのわが家亭」は、村から離れた街道沿いに一軒だけで立っている典型的な宿駅です。
 街道と宿駅、村の関係について知らない人からすると、どうして村から離れたところにぽつんと宿屋だけあるんだろうと思ってしまうことも考えられます。このような配置を利用するときはストーリーの中でそれなりの理由を説明した方がいいかもしれません。(p.231)

実はこの設定が中世ヨーロッパでは当たり前であったというのがこの項での説明。生活道ではなく国レベルの施策として作られる街道(王の道、とも)は、村を通るように作ったわけではなく、むしろ村人からは歓迎されなかった。一つは街道が耕作地や放牧地を潰すことになってしまうから、もう一つは見知らぬ人が生活地域をうろつくのが嫌われたから。


 良くある名前とその名前に付随したイメージ(アーサーは古めかしいが立派な人に、エリザベスは立派な人に付けられる名前だが、短縮形のリズやベスは子供が面倒がって略しているイメージだ、とか。)、同じ意味の名前のリスト(ルークのドイツ語読みがルーカスとかネタだよね。)、蘊蓄ネタも満載。


 ということで、入門用としてお薦め。創作に手を出す人ならこのレベルは常識でいいかな、という一冊なので、確認用にも。