- 作者: 瀬名秀明
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/07/08
- メディア: 文庫
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瀬名の普通に入手できる短編は大体読んでいる(本書だと「魔法」はアップル専用なので読めず。「静かな恋の物語」は企業文化誌。)ので、大半は再読ということになる。で表題作の「希望」。前回読んだときも、確かに面白いのだがなにかひっかかりを感じていた。今回もそういう意味では、うまく腑に落ちてこない。個々のモチーフは分かるのだけれど、全体の組み立てがどうもうまく捉えきれない。何か読み損ねているのかなあ。つまらない作品ではない(どころか、読んでいる最中は年間ベスト級に面白いと思いながら読んでいる。)んだけど。
個人的なお気に入りは「光の栞」。フランケンシュタインテーマでこういうのを書けるんだよな、というのは嬉しいことでもある。
風野氏の解説では、「そろそろ科学者作家というイメージは更新した方がよいのでは」と書いているが、私がこの短篇集を読んだ感想はむしろ逆で、以前にもまして科学に踏み込んでいるんじゃないのかな、というもの。
「一歩進んだけれど分からないことは更に増え、まして社会との軋轢はさらに増し」という先端科学における「科学者の有り様」というのが、むしろ剥きだしになってきている。そういう科学者の、おそらくは当人達も明確には自覚していないであろうものを表現してきている。科学者カップルの、ある種異形な恋愛風景も、社会との摩擦の現れ。そんな気がする。
そういう意味では、たしかに、「科学者作家」ではなくなったのかもしれない。「科学を(科学に対峙する人間)を書く作家」とでも言えばよいのだろうか。あるいは、科学と物語をどう繋げるかというところから、科学と物語を繋いだ結果をどう科学物語(SF)するかというところに重心が移ったというか。
そして、こういう突き放したかのような作品を書きつつ、中学生向けドラえもん小説*1を書けるところが、瀬名秀明らしいなとも思う。(しかも、通底するものがあるのは、読めばはっきり分かる。)
*1: