- 作者: クリス・アンダーソン,関美和
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/10/23
- メディア: 単行本
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昔はものを作って売ることに多くの手間とお金が必要だったけれど、今はそうではない。誰でも遙かに容易にAtomの生産者としてビジネスをすることができる時代になった、という主張。
『ロングテール』や『フリー』のときにも、「そんなうまく行くわけねえ」という批判がたくさんあったけれど、別にクリス・アンダーソンは「全てがそうなる」と言ったわけではない。「そういうやりかたが、ビジネスとして成り立つようになった」と言っただけ。本書で言う「メイカー」も同じように考えればよい。
特に、長年同人誌とかをやってきた人なら、わりとすんなり「そうだよな」と腑に落ちると思う。ワープロ、レーザープリンター、といったものが普通の人でも買えるようになったあと、極少部数なら素早く、小資本で本が作れるようになった。そして、ウェブの発達で複数名で原稿集めるのも遙かに容易になったし、物流の発達で少部数を専門業者に依頼することも簡単になった。ようは、これが物品でも起こりつつあるよ、という話である。
特許に怯える必要がなくなるとかいうくだりは、アップルを見ているととてもそうは思えない。安全性の話とかは、日本で通すのはかなり難しい。そういう意味で保留したくなる部分もあるけれど、それは『フリー』でも同じで、別に全てがフリー化したわけではなかった。でもフリーの方法論で勃興したジャンルもあった(ソーシャルゲームなんか典型)。メイカーズも同じなんだろう。
今回は、クリス氏本人がメイカーズ・ビジネスをやっているせいもあり、具体的な話題も面白い。「小売店から材料を買うな」とか「少なくとも、コストの2.3倍の価格をつけろ」とか。他に、こういう製造の部分を引き受ける専門の会社もある(クァーキー、など)そうで、この辺のビジネス展開の早さはいかにもアメリカ的。
レゴの例も面白い。大企業としては出せないレゴ部品(リアルな武器など)をこういったメイカーズが作ることを半ば公然とレゴ社が支援しているのだ。
彼らが商標を侵害せず、先のとがったおもちゃや呑み込みやすいおもちゃから乳幼児を遠ざけるよう警告をつけている限り、レゴはファンの立ち上げた周辺ビジネスにたいてい目をつぶっている。実際、レゴは、毒性のない高品質のプラスチックを使い、のどにつまらせたときのためパーツに空気穴をあけるよう、こうした企業に非公式の指導をおこなっているほどだ。(loc 3970)
大企業が手を出せない「ロングテール」をメイカーズがサポートし、レゴのエコシステム全体として幸せになるというわけだ。これは非常に上手くいっている例なのだろう。
一方、メイカーズ方法論で武器を作ったらどうする、という話題はすでに出ているし、本書内にも遺伝子操作の例が紹介されている。まあ、こういうのは止められないだろうと思う。
社会・経済的に面白かったのは以下の部分。
オートメーションのおかげで、製造業に占める人件費の割合はほんの小さなものになっている。電子機器の場合は、ほんの数パーセントといったところだ。そうなると、輸送費や時間といったほかの要素がより重要になってくる。(Loc 4852)
今製造業が途上国に流れているのは、人件費が安いから。しかし、人件費の割合が下がれば相対的に他の要素が重要になってくる。特に生産数が小さくなれば、カントリーリスクや物流の影響が相対的に大きくなり、国内生産の方が有利になるものが増えるだろう。つまり、一部の製造業が回帰してくる、という話。
ギミック付きのボードゲームとか、一点突破型ガジェットとか、関心ある人も多いだろうし、そういうのにもろに関わってくるということもある。
とにかく、納得できる部分できない部分、当たりそうな予想と当たらなそうな予想、そういったものが混ざっているけれど、それだけに「面白い」一冊。