k-takahashi's blog

個人雑記用

第一次世界大戦 〜最新情報を反映した入門書

第一次世界大戦 (ちくま新書)

第一次世界大戦 (ちくま新書)

次号のコマンドがWW1のゲームだったなと8月までに読めばいいかと思っていたけれど、読みやすくてさっさと読み終えてしまった。
実のところ、一般的な日本人はあまりWW1のことは知らなくて、ヴェルサイユ条約国際連盟は知っていても、そのきっかけとなったWW1のことは知らないことが多い。
(ゲーマーの場合は、WW1のゲームが時々出てくるのでその時にヒストリカルノートを読んだりするし、戦車・飛行機が初登場したこととかも含めて知識としては知っている人が多いが。)


そのWW1について、背景、展開、位置づけなどをコンパクトにまとめている。「とりあえず一冊というならこれ」という位置づけになる本だと思う。
当初、従来の帝国国家間の闘争として始まり、その枠組みで皆考えていたのが、段々変質していく様子(アメリカ参戦により後戻りできなくなったというのは、興味深い)


また随所に最近の研究成果も取り入れられていて、例えばヴェルサイユ条約の位置づけ。

この条約は、当初から様々な批判や反論を呼び起こし、「ドイツ側に過酷な」条約という評価が長く定説化していた。支払い不能と言われた高額な賠償請求、全海外植民地の没収、一方的軍備制限、隣接諸国への領土割譲などがその例として挙げられた。
しかし、こうした評価は現在ではかなり集成されている。
(中略)
ドイツでは、急速に戦前の大国意識が復活し、その視点から条約を批判するようになったのである。
現在では、ヴェルサイユ条約の内容、連合国側・ドイツ側の対応などが見直された結果、当時としてはそれなりに考えられた条約である、という評価に落ち着いている。
(No.2186-)

なのだそうだ。(もっとも、第二次大戦を誘発した要因の一つとしての重みとかはどうなっているんだろう?)


他に興味深かったところを。

総力戦(Total war, totaler Krieg)という用語は大戦中にはまだ使われず、それがいつどこで初めて使われたのかも実ははっきりしていない。1920年代前半にフランスで、将来の戦争は国家・社会の全部門を掌握するような総力戦になるとする考えが登場し、これが紹介されて広まったとの説がある。これはまだ充分確証されていないが、そうだとすれば、もともとは将来の戦争の正確や構造を予想した概念であったということになる。
(No.1487)

『総力戦という概念には敵国民の絶滅への指向が含意されている』(No.1515)というのも、二次大戦時のドイツを動きを見ると納得できる(が、あまり嬉しい話ではない)。

開戦後四ヶ月で目指すものを手に入れた後は、連合側への軍事支援を最小限に留め、軍需景気に沸く日本が、場合によっては同盟国側に引き込める国と見なされたことは確かである。(No.1825)

ドイツがこの時点(1917年)で、この戦争を帝国主義国家同士の戦争と考えていたことが分かる。英仏側も、盛んに秘密条約による利益配分を画策していたので、別にドイツに限った話ではない。


ところで、第一章にこんな記載がある

伝統的列強に代わって、ドイツこそが時代を先導する資格と権利があるという主張につながった。英、仏、ロシアはドイツの躍進を妬んで、三国協商でドイツを包囲しようとしているのだという国際社会観は、ドイツの支配層や市民層の間で広まっていた。逆に、三国協商側からすれば、ドイツが強引な世界政策によって、ドイツを警戒させるように仕向けているので、ドイツの包囲網という非難は当たらず、みずから作り出した包囲、自己包囲であるということになる。
(No.315)

あくまでも本書はWW1の本なのだが、この部分は今の中国そのまんまに見えて、イヤな感じ。