我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち (ブルーバックス)
- 作者: 川端裕人,海部陽介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/12/14
- メディア: 新書
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なにやら哲学的なタイトルに見えるけれど、「なぜ現在の地球にはホモ・サピエンスしかいないのか?」という意味。
人類の進化を考えるときには、初期の猿人、猿人、原人、旧人、新人、と700万年を大きく5段階に分けて考える。分類のポイントは二足歩行・脳容量・ボディサイズの3つ。人類進化の樹形図を見ると、様々な人類が存在してきている。にも関わらず、現生人類は新人の中のホモ・サピエンス一種だけ。これは一体どういうことかというのがタイトルの意図だろう。
そういった問題意識をもとに、アジア圏の原人分類の最新成果を解説している。
海部陽介先生の研究を川端裕人氏がルポ形式で色々説明してくれる。発掘現場は研究交流の話なんかは、本人が直接書くよりもこういう形式の方が伝わる。
さて、中身はジャワ原人、フローレス原人、デニソワ人、そして台湾沖で発見された澎湖の化石といった化石の発掘、分析、研究といったもの。フローレス原人は「ホビット」の愛称で一般にもかなり話題になった。なぜ彼らはあんなに小さいのか?についての分析も本書に書かれている。病気説、子供説などを検証するのだが、とにかく問題は小さいこと。それを化石に残っている証拠を細かく見ていくことで、仮説を絞り込んでいく。
本書では、ソア発掘の成果も踏まえた上で、「100万年前にフローレス島に到達した原人が島嶼効果で小型化し、それがそのままのサイズで5万年前まで生存していた」という説を採っている。
10万年前のスナップショットを撮るとアフリカにはホモ・サピエンスが生まれ、ユーラシアにはネアンデルタール人がいて、デニソワ人や中国にも旧人がいて、そしてジャワ原人、北京原人、フローレス原人、澎湖化石(原人だろうとされている)。こういったことが徐々に分かってきた。では、なぜ今はホモ・サピエンスしかいないのか?
「好戦的・攻撃的な現生人類が他の人類を滅ぼした」というのが一般受けする説だが、おそらくそうではないだろうと本書では見ている。というのは、思った以上に混血が進んでいたのではないかという仮説が出てきている。デニソワ人の位置づけも変わるかもしれないものだそうだ。
最初に戻ってサピエンスに多様性がない、サピエンスしかいない理由。
新人サピエンスと旧人や原人との違いは、サピエンスはいろんなところにあっというまに行けちゃったということです。一方で、旧人や原人は行けないから多様化しました。(No.2354)
どこでも行けるから均質になる。
地質学的な時間の流れでいえば、わずかな期間で地球上に散らばったゆえに均質で、その後も遺伝的な交流が続いているがゆえに、もっと均質だ。近年は交通手段が発達したこともあり、こういった交流はさらに進んでいる気がするから、人類は以前にもまして均質になりつつあるのかもしれない。(No.2369)
最近の学説だと、人類は他の動物と比較して長距離移動能力に優れているそうだ。そして移動による環境変化へはテクノロジーで対応する。と考えると色々腑に落ちる考え方だなとは思う。もちろん、学術的にはこれからも色々検証は進んでいくだろう。
海部先生は、
https://www.kahaku.go.jp/research/activities/special/koukai/
にも関わっている。戦略的移動力を検証するという問題意識なのだろう。