- 作者: 野島美保
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2008/09/29
- メディア: 単行本
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本書のテーマは、形のないデジタルコンテンツの売り方を科学すること、言い換えると、デジタルコンテンツの収益モデルである。その際に大前提としておきたいのが、最終消費者に課金をすることを諦めないと言うことである。顧客を満足させてその対価を請求する、この当たり前のことをデジタルコンテンツという特殊な業界で実現させたいのだ。(p.12)
なので、現在数少ない成功例であるオンラインゲームにはかなりの量が解説に割かれている。
まず、デジタルコンテンツの価値として筆者が主張するのが以下の4つ。
- 新奇性、娯楽性
- コミュニティ
- 利便性
- UCC(User Create Contents)
これらの組み合わせ方と、そのどこから収益を上げているかで分析することを試みている。例えばオークションなら、娯楽性やコミュニティに対しては課金せず、実際に売買が発声した利便性のところに課金するモデルが一般的である、など。
この組み合わせと収益の関係から、現状のオンラインゲームを分析すると、「新奇性はゲームへの熱中度に対して提供するが、収益には結びついていない」「オンラインゲームで収益に貢献しているのはコミュニティ」(p.74)なのだそうだ。
著者が何度か使っているキーワードに「居場所」というのがある。ネット上にユーザの「居場所」を提供するのが非常に重要で、利便性もコミュニティも娯楽性も、居場所がなければ有効にならないという見方である。なかなかいいキーワードだと思う。
自分の居場所だ、とユーザが思ってくれればユーザはそれを使い続けてくれる。wikipediaもその一環で、「他のユーザと協働するという体験」はオンラインゲームで遊ぶのとある意味で同質だと言えるそうだ。
RMTに付いても、類書に比べて深く考察されている。コンテンツの権利の問題やらリアルマネーとの関係の問題もあるが、上述の「居場所」に関係した視点もきちんと述べられている。業者プレイがゲームの楽しさを損なうことも、RMTによる世界の歪みも、どちらもユーザの「居心地を悪くする」ものであるから好ましくない、という点が述べられている。この言い方は、少なくとも私には納得性が高い。
RMTに限らず、仮想世界と現実世界をお金で繋ごうとすると色々問題が発生するが、本書はその解きほぐしの一助になると思う。私は、上記の「4つの価値」と「居場所」というのが、良い立脚点になると思った。