k-takahashi's blog

個人雑記用

数学ガール フェルマーの最終定理

数学ガール/フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2)

数学ガール/フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2)

 帰国便で読んでいたのがこの本。買ってから間が開いてしまったが。


 前作では、ミルカさん、テトラちゃんという二人のガールがいましたが、本作では、ユーリという従姉妹が一人増えている。なんで、登場人物を増やしたのかと思ったけれど、丁寧側の記述を増やすためにはテトラちゃんだけでは回しきれなかったのかなと思った。ちなみに、ユーリは中学生で、数学はそれほど強くないという設定。非常に聡明ではあります。

 本作の目的地はフェルマーの最終定理フェルマーワイルズの定理)なので、当然最初に出てくるのはピタゴラスの定理。かと思いきや、時計の巡回問題を例に「互いに素」の話題。
本書では、「互いに素」のことを「a⊥b」と記しているのが面白かった。素因数分解した結果の素因数の指数の列をベクトルだと思えば、互いに素な二つの数を表すベクトルは確かに直交するわけだが、こういう風に書くのかと感心した。

 そのあとで、偶奇判定、背理法複素数による素因数分解(砕ける素数というそうです)、群、合同、環、体。ここで剰余環も出てくる。
 ここで、フェルマー予想の登場。4次のフェルマー予想を無限降下法で証明する。この辺の流れは非常にスムーズで、いつの間にか無限降下法の話になっていて感心した。


 その次が人類の至宝。前作もそうだったけれど、複数の世界(表現、手法)を行き来しながら証明を進めていくスタイルが、中学生であるユーリにオイラー式を説明する場面でも巧妙に使われている。


 そして、大ボス。もちろん、ワイルズの証明を追うのは無理だが、どういう証明戦略が失敗に終わり、どのような道具が登場し、どのような流れで証明が試みられてきたのかの道筋は非常に丁寧に示されている。複数の世界を行き来しながら、という本書で繰り返されたモチーフが、フェルマー予想と谷山・志村の予想の繋がりというところに結びついているところがよかった。


 ところで、本書には一か所大いに不満(というか気の毒)な点がある。

まず楕円曲線とは……おっと、話の前に場所を変えよう。ギャラリーが多すぎる。とミルカさんが言った。
 食堂の中、僕たちの席の周りには人だかりができていた。セミナーに参加した高校生たちが、ミルカさんの話を熱心に聞いていたのだ。(p.304)

この場面で、置いてきぼりにされてしまった高校生たちが気の毒でなりません。