k-takahashi's blog

個人雑記用

雇用の常識

雇用の常識「本当に見えるウソ」

雇用の常識「本当に見えるウソ」

本書では、雇用における「作られた常識」に対して、本当のところを追求してみたい。その結果は、いずれも言われている姿と現実が大きく異なることになる。そして、風説とは全く違った形で、これからの危機に向け、もがいている日本の姿がうっすらと見えてくる。こっちの方がよっぽど大切だ。もがいている間に、もう時間との競争に入っている。(p.4)

なぜ識者は非常識を語るのか、を次の題材にする。
結局、彼らはまず最初に、自分の言いたい主義主張があり、それを話したいがために、テレビに出演しているのだろう。題材が「ネット犯罪」「引きこもり問題」「サブプライム破綻」「麻生太郎の不人気」とどんなに変わったって話しているのは、「企業が悪い」「小泉改革反対」「若者がかわいそう」であったりする様を取り上げてみた。(p.5)

 著者の海老原氏はエイクリートエージェントに入社し、人事・経営誌「HRmics」の編集長。と書くとポジショントークが疑われるわけだが、そう決めつけるのは早計。こんな記述もある。リクルートが2007年に行った調査の結果を参考にして

ほぼどの年齢においても、過去に転職をしたことのない人が最高の年収となり、転職を1回・2回・3回としていくにつれて、確実に年収ダウンとなっている。(p.23)

生涯賃金を考えるなら、転職は2回程度にとどめておくべき、というのが正解なのだろう(p.25)

 本書は基本的にデータをきちんと参照しながら話を進めている。なので、結論に納得するにせよ疑問を感じるにせよ、議論を続けることができる。この点が、「マスコミ識者」との違いだろう。


 なので、結論だけ引用してもしょうがないので興味のある方は本文を読むしかないのだが、一例だけ紹介。
1988年と2008年を比較すると35歳未満の正社員数は134万人減少し、35歳以上の正社員数は203万人増加している。これだけ見ると、若年層が割を食っているように見える。
ところがこれにはトリックがある。
それは、「35歳未満、35歳以上の人口が大きく変わっている。具体的には35歳未満人口は5800万人から4700万人に減少している一方で、35歳以上人口は6400万人から8000万人に増加している」という事実を隠していることである。実際、「正社員比率」で比較すると、35歳未満が-12.4%なのに対して、35歳以上は-13.5%となり減少幅は35歳以上の方が大きい。
若者が割を食っているかどうかはともかくとして、「正社員数の減少」は根拠になっていないのである。


 病気で例えれば、体調が悪いのは事実だとしても、きちんと調べずに原因を決めつけて訳の分からない治療をするのでは治りも悪い。下手をすれば深刻な病気を見逃しかねない、ということである。
「?」と思うところもあるが、変な言説もどきに引っかからないためには役立つ。