k-takahashi's blog

個人雑記用

軍事研究 2011年06月号

軍事研究 2011年 06月号 [雑誌]

軍事研究 2011年 06月号 [雑誌]

今回も震災特集だが、10万人投入を実現した背景などについて、藤井非三四氏が『災統合任務部隊「JTFーTH」始動』という記事を寄せている。阪神淡路震災の教訓を活かしての準備があったという記事で、

情報収集をする場合、行政側が物理的に派遣要請ができないと認められる場合、人命救助をする場合、防衛庁の施設やその近傍での災害の場合、各級部隊長は独断専行が許されるとした。(p.29)

という基準の明示を行ってあった。一方、行政側の対応も素早く、岩手県知事の午後2時52分災害派遣要請を筆頭に、政府からの命令も午後6時には出ていた。

10万人投入のベースとなったのが、『平成二二年四月に統合幕僚監部が発表した「首都直下地震発生時における災害派遣」というシナリオ』。また、交通路線の確保も阪神・淡路震災の教訓を活かして、東北自動車道を緊急車両専用として押さえていた。(この、被災地への道路アクセスの困難を記事中では『インパール作戦に似た困難』と称していたのが興味深い。

記事のタイトルの「JTH-TH」だが、これは統合任務部隊のことで、三自衛隊が統合して活動するというもの。実際に編成運用されたのは今回が初めて。加えて米軍との協同作戦も初めてとなるらしい。この辺りの統合がスムーズに動いたことは、訓練・研究の成果なのだろう。


今回は予備自衛官も大量投入された。それについて藤井氏はこんな記述をしている。

招集された予備自衛官即応予備自衛官は、主に民生支援に当たっている。この種の任務は、世間を知っている彼らの方が適している。また、運輸関連の会社勤務の者も多いはずだから、民間の輸送はこうやって省力化を図っているなど学ぶことも多いはずだ。いつまでも人海戦術の手渡しでは、進歩というものがない。とにかく「予備」というものの重要性を再確認する良い機会だ。(p.37)


同じく震災関係では、野木恵一氏が『フクシマ原発事故と核防護』という記事を寄せている。「独ソ戦初期のソ連軍のような状態」と称しているのが面白いが、政府・東電の対応への失望感の裏返しのような形で、海外への過度の期待が表れているとも書いている。その筆頭が、CBIRFだったわけだ。その米軍の放射線対策についての解説記事。主に戦場向けの話で、今回の福島事故にそのまま使えるマニュアルではないようだ。


災害派遣関係で、輸送についての記事が複数載っている。C-5Mスーパーギャラクシーの紹介記事もその一つで、改造型のC-5の能力は、C-17を持ってしても容易に代替可能なものではないそうだ。(最大積載量でC-17を上回るため。ただ、稼働率で圧倒的にC-17に劣るため、任務によってはということになる。本記事中では、『ドーバーからトルコのインシルリク基地までのノンストップ飛行を三四ソーティ実施、パレットに載せた計三八○万ポンド二七二四トン)の貨物を空輸』した場合は、C-17より燃料を44%節約できる、と書かれている。)


輸送機繋がりとなるが、極東ロシア軍の現状解説記事『極東ロシアの軍事力:その現況と将来』(小泉悠)にも輸送機の事が書かれていた。『プレヴェストニク飛行場を拡張してII-76大型輸送機が離発着できるようにする』(p.108)ということの意味は、今回のトモダチ作戦の効果を見ているとよくわかるのではないだろうか。
同記事中で面白かったのが、北極海の話。地球温暖化の影響で北西航路として可用性が増してきている他、海底資源の問題もある。ここに中共が出てくることをロシアが警戒しているという部分。最近の中共のごり押しぶりを見ていると、たしかにありうるな、と。(というあたりからも分かるように、極東ロシア軍の整備は長期的観点から主に対中を意識したもののようだ。)


インテリジェンス連載は、ソ連によるアフガン侵攻について。(『ソ連のアフガン侵攻とKGBの役割』(橋本力))
1978年の四月革命がKGBの見込みと異なり成功裏に終わったあたりから、情勢把握に齟齬をきたしていたことが伺える。度重なるアフガン政変の評価もうまくできておらず、侵攻という決断になってしまったようだ。


パキスタン麻薬地帯潜入ルポ』(桜木武史)は、アフガンから流れる麻薬にむしばまれるパキスタンの人たちのルポ。子供達を育てるためのお金をヘロインに使ってしまっているのにやめられない母親のことなども書かれている。麻薬の注射針によるHIV蔓延を防ぐため、あるNGOは麻薬に使われると承知で注射針の交換を行っている。そういう状態なのである。