k-takahashi's blog

個人雑記用

次世代インターネットの経済学

次世代インターネットの経済学 (岩波新書)

次世代インターネットの経済学 (岩波新書)

紹介にある「MicrosoftGoogleのような世界に冠たるコンテンツ企業が現れないというジレンマに直面している」というところに期待すると、ちょっと視点が違うという印象を持つと思う。


本書の中では、情報通信産業を経済学の視点で分析し、政策をどうとるかというところが一番面白い。おそらく、著者の専門がそこの辺りなのだろうが、調査の手法や比較説明も説得力がある。


幾つか面白かったところを抜き出し。

垂直統合から見てバンドルかアンバンドルか、水平競争から見てシングルホームかマルチホームか、プラットフォームの組み合わせを数えると、図3−2のように、二掛ける二で四通りの組み合わせができあがる。既に見たとおり、社会厚生上、バンドルの方がアンバンドルより望ましく、マルチホームの方がシングルホームより望ましい(pp.125-126)

必ずしも分ければ良いというものではなく、ネットワークとコンテンツが補完しあう方がトータル価格が下がることもあるという指摘。(iモードや従来のテレビ局のやりかたは、経済学的に見てそれ自体が悪いと言い切れるものではないのだ、という指摘)

コンスタビリティ理論は自然独占性に基づく市場の失敗と公的規制の必要性に大変興味深い挑戦を行った。たとえ自然独占的な産業でも、潜在的新規参入の圧力さえ働いているならば、既存企業は独占利潤をむさぼるような価格を設定するわけにはいかず、平均費用価格設定に甘んじるので、余計な公的規制は必要ないというのである。
(中略)
コンスタビリティ理論の頑健性をよくよく調べてみると、固定費用のわずかな部分でも埋没してしまう場合には、コンスタビリティ理論は成立せずに、伝統的な自然独占産業理論の方が成立することがわかったのである。(pp.169-170)

例によって銀の弾丸は無いということらしい。


終章には、例の「光の道」についての議論もある。
社会的には孫のゴリ押しがあきれられる形となったが、著者は、きちんと修正すれば現実的な案にすることは可能という見方をしているようだ。実施時の費用と必要な期間については疑問を感じないでもないが、方針は検討に値するように思う。ソフバンの横やりをどかして、NTTの外部取締役に依田教授を送り込むとかいうのが、妥当なんじゃないかな、と感じた。


フリー批判

本書の第一章は「フリーミアム」批判なのだが、

ネットワーク効果レバレッジとして効かして、一方で無料で他方で有料で、二種類のユーザを共通のプラットフォームでつなぐようなビジネスモデルを両面市場(Two-sided Market)という。Googleのビジネスモデルは、両面市場の経済学として明快に説明できる。(p.48)

というのが、なぜアンダーセン批判になるのか分からなかった。これ、当然のことだと思うし、「フリー」を読んだ人(私もそうだし、私の周囲の人も)もこの議論に反対はしないと思う。「フリー化する」のは当然だとして、それを「フリーミアム」まで持ってくるのは大変だよというのは、当時から言われていたし。
「両面市場」という言葉は、多分アンダーセンの本にはなかったと思うが、そんなに違うこと言っているようのは思えない。依田先生、何がそんなに気に入らなかったのだろう?
サービス提供があまり考えられていなくて、もっぱらコンテンツ提供を考慮の対象にしているところとか、私とは視点が違うのかもしれない。

実際には、デジタル経済の商品はハードウェアでもソフトウェアでも、莫大な開発費用がかかっている。要は、5%の有料ユーザの支払いだけで固定費用の全てをまかないきれるかどうかの問題である。それができるなら、たいした商品ではなかろう。(p.36)

に対してはソーシャルゲームの隆盛があるけれども本書では触れられていない。
ロックインの弊害については一言「アップル」と言えば済むがそれもない。
著者の主たる関心は、多分この辺にはなくて、政策提言の方だからだろう。