- 作者: 稲船敬二
- 出版社/メーカー: 中経出版
- 発売日: 2012/03/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ヒット商品を生み出せない原因は、おもに次の3つです。
1.明確なコンセプトを立てていない
2.立てたコンセプトが社内外で承認されない
3.社内外の意見でコンセプト通りのものがつくれない
(pp.8-9)
ざっくり言えば、「コンセプト」とはやりたいこと。コンセプトを実現するための活動が「リーダーシップ」。その前提で、コンセプトとは、リーダーシップとはという話が色々なエピソードを交えて解説される。コンセプトを守るというのは単なる石頭とは違うとか、アイディアは盗めてもコンセプトは盗めないとかも。
面白いと思ったのが「矛盾」という言葉の使い方。本書中には「矛盾」という言葉が何度も出てくる。その「矛盾」への対応方法が本書でいう「コンセプト」に繋がっているのだ。制作者と経営者との間の矛盾、納期と品質の間の矛盾、自分の成功と人の成功との間の矛盾、これをどうやって解消するのかというのが智恵の使いどころで、コンセプトを守るという観点からどこを維持してどこを譲るかというような矛盾の解消の方法が見えてくるのだ、といった感じの流れになっている。
実際に100万本単位で売れるヒット作を連発した人だというところでの説得力はあるが、本書で語られている内容自体はちゃんとしたビジネス本ならたいてい書いてあるので、そういう意味での新味はあまりないと思う。
一方で、ゲームとビジネスを繋ぐ立場から書かれているので、どちらかしか知らない人だと、分かりやすさも併せて得るところが多いと思う。多分、ゲームに興味のある人がヒットゲームの作り方を学ぶという読み方が多くなると思うが、本書だけに留まらずオーソドックスなビジネス書も読むという前提なら、本書をとっかかりにするのは良いと多う。
いくつか抜き書き
どうすればコンセプトを守れるか。僕がいつもやっているのは、「出席者が質問しそうなポイントを先回りしてつぶす」という方法です。
(中略)
こうしてことごとく先回りして、質問されそうなポイントをつぶしていけば、NGと言われる心配はありません。これを「コンセプトの防具」と呼んでいます。
(p.75)
スポンサーに企画を納得して貰うときのノウハウについて。
これは、要するにどれだけ考え抜いたか、準備をしたかの目安でもある。更に稲船氏は、「わざと質問されるようにし、それを最初に潰す」というテクニックも紹介している。
もちろん、「聞いて貰える」というところまでは進んだ上での話で、実際にはそこまでが一苦労。稲船氏自身は直訴を受け入れるタイプだけど、そういう人ばかりとは限らないわけでして。
多くのクリエーターがお客様だけを見て仕事をしていて、そのほかのことが視野に入っていない状態です。
(p.175)
ここだけ見ると「お客様を見ずにどうするんだ!?」となりますが、ここで稲船氏が言っているのは、ステークホルダーのこと。つまり経営者の視点の話。ゲームの内容が完璧だと、かえってプロモーションが上手くいかないことがあるそうだ。
他の本で補え、ということについて
稲船氏のやりかたは参考になるところは多いのだけれど、ところどころ誤解もあるし、一般的とは言えないようなこともある。そういうのは咀嚼する必要があるので、ビジネス書として読むなら別の本も読むことを薦めます。
例えば、
『デッドライジング』が発売される前は、ゾンビをモチーフにしたゲームってそれほどありませんでした。実際、『デッドライジング』の後に、バタバタとゾンビものが出ました。(p.89)
とか、言わんとするところは「時代に合わせるのではなく、時代を作れ」ということでそれはよいのだけれど、ゾンビゲーってアメリカでは昔からの定番だし、そもそも稲船さんが「バイオ」シリーズを忘れちゃダメでしょう、とは思う。(「バイオ」と作ってきたカプコンが「デッドライジング」を作ろうっていうのは、むしろ当然の流れという言い方もできると思う。)