k-takahashi's blog

個人雑記用

軍事研究2012年8月号

軍事研究 2012年 08月号 [雑誌]

軍事研究 2012年 08月号 [雑誌]

「薄煕来」と「李春光」 (黒井文太郎)

五月に発覚した、中国大使館員スパイ事件の解説記事。
黒井氏の分析によれば、李春光氏はスパイというよりは個人的蓄財目的での活動が主のようだ。もっとも、李春光氏が日本で活動するのに有利なように取りはからわれていたのは事実(弁護士資格を取得していることが、経歴的には不自然で、これは「参謀部第二部が対日工作の道具として根回ししたものではないか」と疑われる。)のようだ。
なので本件自体はそれほど深刻なものではないようだが、日本側特に民主党政府の脇の甘さは相当問題。


薄煕来事件の方は、中国国内の権力争いのようだ。


記事後半は、李春光の所属先と思われる総参謀部の解説。現状、公然情報の収集と人脈作りがメインで、この人脈は「無意識の協力者」を作ることでもある。

北朝鮮弾道弾発射機の正体 (三鷹聡)

4月15日の北朝鮮の軍事パレードに登場した新型弾道ミサイル
注目すべきはその輸送トレーラーで、16輪TEL(輸送起立式発射機)は中国製らしいということを解説する記事。

普通に考えてもこの手の車両が北朝鮮の国産とは考えにくかった。しかも中国の協力はTELだけではないということは想像に難くない。何等かの形でミサイル本体開発にも絡んでいると見るのが普通である。(p.61)


ところで、北朝鮮やイランがこの種の核ミサイルの開発を進めている一方で、アメリカはこのタイプの兵器は作っていない。SS-20を巡っての騒動の結果、1987年に米ソ間でINF条約が締結されたが、それにより米国はSRBMの保有を禁じられている。INF条約は成功した軍縮条約とされてきたが、その間隙をつく形になっているのだそうで、軍縮条約が脅威を生むという皮肉な結果。

総括:レーザー兵器と高出力マイクロ波兵器(井上孝司)

連載の最終回。
反射衛星ならぬ反射鏡の実験の様子や、最新情報補足(今年4月に行われたFIRESTRIK
Eのプロトタイプ「ガンマ」の試射)など。
反射というのは、ようするに見通し外への攻撃ということなのだが、もちろん飛行機に積む話もあって、こちらはF-35BとB-1Bが対象。F-35Bの方は、STOVLのリフトファンを外してそこにレーザーを積もうというもので、100kWクラスを想定。B-1Bの方は、爆弾倉にHELLADSを入れようというもので、150 kWクラス。


ただ、いくら米軍といえども、この種の兵器の優先度は低いそうだ。

黙々と歩くレンジャー学生 市街地行軍取材記 (菊池雅之)

6月12日に行われた第1普通科連隊のレンジャー訓練の取材記。
訓練自体が決して楽なものではないのだが、その最後が運動家の罵声というのはやはり気の毒としか言いようがない。

反対派は「今回のコースには通学路も含まれており、子供たちが迷彩服に銃を持つ兵隊の姿を見たらショックを受ける」と言っていたが、私からすると、子供たちに「人殺し」とか「殺人」とか物騒な言葉を掲げるほうがよっぽど悪影響ではないかと考えてしまう。(p.120)

今時、兵士の姿を見てショックを受けるような子供はごく少数だと思う。

現地取材:潜入、シリア内戦の町 (桜木武史)

続く反政府デモ、そしてそれを容赦なく鎮圧する政府軍。いまや内戦状態のシリアに潜入取材した。ムハバラート(秘密警察)による連行を経て、反政府勢力の町に潜り込んだが、ショックだったのは国連の停戦監視団がまったく役に立っていないことだ。(p.206)

今号で一番興味深かった記事。シリアについては、少なくとも欧米ではかなり大きく取り上げられているのだが、それを扱った記事。
アナン調停やドゥーマ陥落といった事件の最中に、そのドゥーマにいた人物のルポというのは、国際的にも価値のある記事だと思う。


アラビア語を学ぶ学生だという口実(家賃がダマスカスより安いので学生が多いのは事実らしい)でドゥーマに入る。ドゥーマ自由シリア軍が押さえており、治安部隊や秘密警察の進入を防いでいる。そういうところでないとデモすらできない。
そして、国連もまともに機能していない。

調停案を受けてシリア政府が国連の停戦監視団を迎え入れたのが、四月一五日のことである。ドゥーマにも一度だけ視察に来たが、不平不満を訴える多くの住民に恐れをなして逃げ帰っている。その監視団が、昨日の激しい戦闘の後になぜドゥーマに来たのだろうか。
そんな疑問がよぎったころにはすでに監視団を乗せた車はスピードを緩めることなく市内を通り過ぎていった。そして何発もの銃声が立て続けに鳴り響いた。治安部隊が監視団の後ろに張り付いて市内に侵入してきたのである。私は周りの若者に手を引かれて急いで住宅街に逃げ込んだ。そして、その日の朝の三時、ドゥーマはあっけなく政府軍の手に落ちた。
「四月一二日の停戦はまだ形の上では生きている。自由シリア軍は監視団に自分たちの存在が見つかることを恐れたんだ。それで一気に姿を消した。その隙をついて治安部隊が攻撃を仕掛けてきた」
(p.216)

これで、国連を信用しろと言われても無理だろう。

秘密警察KGBの「反体制運動家」工作 (橋本力)

KGBが繰り広げていた「反体制運動家」への工作の解説。
ソルジェニーツィン、サハロフ、ヌレエフといった人たちやその家族が受けた陰惨な工作の数々。
友達のような顔をして接近し工作を行ってから裏切りを働いたり、偽情報を流して信用を損ねようとしたりしていた。また、サハロフ博士については、妻もターゲットになり、手術直前に悲惨な病状の写真を送りつけたりしたそうだ。
バレリーナ(ヌレエフ)の公演を妨害したり、怪我をさせようとしたとかなると、もはや漫画的ですらあるが、実話となると唖然とする。