k-takahashi's blog

個人雑記用

死体は告発する、死体検死医

死体は告発する 毒物殺人検証 (角川文庫)

死体は告発する 毒物殺人検証 (角川文庫)

死体検死医 (角川文庫)

死体検死医 (角川文庫)

正確には「監察医」と言うらしい。変死体が発見されたときに検死を行い、必要ならば行政解剖を行う。ここがいい加減(実際、戦後の混乱期にはかなり適当な対応が行われたらしく、GHQから指導が入ったというエピソードも紹介されている)だと、殺人が病死扱いされたり、殺人が事故死扱いされたりすることになる。本書にもそういった見落としが連続殺人に繋がったケースが紹介されている。著者の上野正彦氏は、

風邪をひけば内科にかかり、ケガをすれば外科に行く。それと同じで変死者の検死は、死体所見に精通した法医学者に任せないと、死者の人権は守れない。
(『死体検死医』No.1101)

と書いており、本書中にも繰り返しこのことは主張されている。


両所共に、様々なエピソードが興味深い。
シャーロックホームズがささいなヒントを組み合わせて推理していく描写があるが、あのような話を死体を調べることによってしているのである。
細かい描写については、興味のある人は直接読むのが良いと思うが、例えば、火事の現場でみつかった焼け焦げた死体。これが死んでから焼けたのか、焼死したのか。肺の中にすすが見つからず、血液の色が鮮紅色でないのなら、事前に死んでいたことになる。場合によっては、殺人かもしれないということになるのだ。
あるいは、戦後の一時期の話だが、焼死体から青酸ガスが検出されて騒ぎになったのだそうだ。調査の結果、一部の建材が燃えるときに青酸ガスを出すことが分かった。この知識は消防関係者にきちんと知らせておかなくてはならない。一吸いで昏倒してしまうからだ。


神戸の酒鬼薔薇事件や、和歌山カレー事件などの有名な事件の紹介もあるし、変わったところでは小説『失楽園』の最後にある「死体検案調書」。あれは、上野氏が書いたメモがもとになっている。なお、上野氏は実際に青酸カリ心中で抱き合ったまま死んだケースに遭遇したことがあるそうだ。そういった経験と、小説の設定とを組み合わせたのがあの「調書」なんだとか。(『死体は告発する』 No.586-)