k-takahashi's blog

個人雑記用

ブルーインパルス 〜その苦難の歴史

第一章こそ有名な「東京五輪のマーク」のエピソードだけれど、そのあとは事故、事故、事故の話。事故の原因分析とか対策とか。
あとはアグレッサー部隊の話も出てきて、ブルーインパルスには人が集まらない時期もあったそうだ。理由の一つは人事で、一旦ブルーに配属されると、もう現場には戻れないというようなことがあったのだ。
そんな苦労話が延々と続く一冊。最後はブルーでの事故から、救難隊に移籍したパイロットのエピソード。


そもそも曲技飛行とは何か、ということも書かれている。

とくに優れたパイロットでなければできないような技を見せるのがブルーインパルスの仕事ではありません。アベレージの技量を持ったパイロットが訓練を積み重ねることによって可能になるからこそ、航空自衛隊パイロットの今を表す飛行展示になるんです。その曲技飛行を一度だけでなく何度も完璧にやれるようにするのがブルーインパルスなんです。(No.642)

曲技飛行チームの存在意義は結局、一国の軍事的抑止力や国力の誇示だという発想に立てば、やはり使用する航空機は国産機であるべきだし、演技の内容も一般国民だけではなく、外国の軍人が見ても『すごい』とうならせるものでなければならない(No.2726)

それが結実したのが、五輪マークだった。
ただ、そうなればこそ事故は許されないはずなのだが、残念ながら事故は何度も起こり、そのたびに原因究明やら対策やらで大変な手間がかかっている。


もちろん、事故は起こるもの。海外の曲技飛行部隊だって事故は何度も起こしている。ただ、ブルーの事故には自衛隊の本質に繋がるものもあった。

「高嶋を責めることなどできない。命令が下っているのに、そのあと個人の判断に任せること自体おかしいと思う。突撃せよと命令されて、ある兵士はそれに従い、別の兵士は危ないと判断して引き返す。そんなことが軍組織で許されるわけがない」
戦ったことのない、軍隊ではない軍隊。ブルーインパルスの事故には、自衛隊が生来かかえる曖昧さがにじんでいた。(No.2486)


また、自衛隊の事故調査については、こんなことも書かれている。

「鍵のかかった檻の中に五人の男がいて、ある朝そのうちのひとりが殺されていました。犯人はほかの四人の誰かです。ここで刑事捜査ならば誰が犯人か特定させるでしょうが、われわれの目的は再発防止ですから次のように決めるでしょう。『疑わしきほかの四人を死刑にせよ』と。そうすれば二度と事件は起きません。(No.3801)

暴論のようだが根拠はある。事件の再発を防ぐのが最優先ならこの考え方は間違っていない。


華やかな曲技飛行の裏話、といったレベルでは済まない苦難の歴史が書かれている。人事の話も含めてそこには、日本の国防の悩みが滲み出てきている部分もある。
ブルー・インパルスに興味を持った人は、まずは別の本を読んで(映像メディアがいいでしょうね)、それから歴史や課題を知りたくなったら本書を読むといいと思う。