k-takahashi's blog

個人雑記用

軍事研究 2007年6月号

 「検証:原子力艦艇の核燃料交換の実態」(野木恵一)は副題の「日本は原子力潜水艦を作れるか?」を説明するために、原子力艦艇の実績、技術的課題などを解説した記事。まず、潜水艦の場合、「耐圧船殻に穴を開ける必要がある」(pp.36-37)という問題もあり、空母の場合でも1回の燃料交換に建造費の3分の1ほどの高額な費用を要する、などの事実が説明される。商用原子炉の実績だけで簡単に作れるものではないわけだ。
 そして、原子力燃料の交換間隔は、初期が3〜4年だったが、最近では50年程まで延びていると言う。これにより燃料交換そのものをしなくてすむようになるのだが、そのために様々なノウハウが利用されている。記事で紹介されている一例が、高濃縮ウランの中に可燃性毒物(ホウ素やガドリニウム)を混ぜておく方法。ウランの濃度を高めれば燃料として使える期間は延びるが、反応が早すぎるという問題が出てしまう。そこで可燃性毒物を混ぜるのである。ここでいう可燃性は中性子を吸収して変化するという意味で、毒物は中性子を多く吸収するという意味。つまり、ウランが多い間は可燃性毒物が中性子を多く吸収することで反応を抑制し、ウランが減るにつれて毒物も減少していくことで、長期にわたり安定した核反応を維持しようという技術。実際には、これもノウハウの塊であることが予想される。
 で、そういう蓄積の無い日本がそう簡単に原子力潜水艦なんか作れないよね、というのが記事の結論。私も同意。


 巻頭カラーページには、入間に展開したPAC3部隊の写真。こうしてみると、レーダー大きい。


 トピックとして面白かったのが、「自衛隊は日本政府の持ち物、警察は各都道府県の持ち物、消防は市町村の持ち物」という指摘。各組織によって取材対応が違うという文脈で出てきた説明。ちなみに、警察本部が一番型にはまった対応で、雑誌は悪、フリーランスはゴミ以下、といった対応を受けたことがあるそうだ。(場所により様々らしいが。)
埼玉県消防学校で行われた記者対応の講義の取材のエピソードが面白かったので引用。

 有名芸能人宅が火災となり、そのため大勢のマスコミが詰めかけたという想定だ。私は「へえ。消防はこんなことも勉強するんだ。しかし何のため?」という疑問が湧いた。そこで教官に聞くと「プライバシーの保護を学ぶためです」という。なるほど、確かに火災を起こしてしまったことは事実。その火災原因も明らかにする必要もある。だが、その時部屋に誰がいたのか、本人はその時どうしていたのかなどは話す必要がない。
(中略)
消防においての秘密と言えば、組織と言うよりもこのように火災現場や火災を起こした人、救急車を呼んだ人などに関する情報となるのだろう。
(pp.121-122 より)

2007年6月8日追記

 野木氏の記事については、下記のような批判が公表されている。

 『軍事研究』2007年6月号の記事,「検証:原子力艦艇の核燃料交換の実態」には,具体的にどこに問題があるのか?

http://mltr.free100.tv/faq09c.html

同記事によると、

  1. 液体金属炉(Liquid Metal Reactor)について
  2. 「RCOHで3年以上もドックに入っていなければならないのも,炉心の熱が冷めるまで期間をおく必要がある」
  3. 「核燃料交換となると,放射性の液体や固体,気体が原子炉から出ることになる」
  4. 「切り離し部分には重要な配管などを通さない」
  5. 「核燃料交換のためには,原子炉の格納容器の蓋を開けて,炉心を剥き出しにしなければならない.」
  6. 「剥き出しになった炉心から,核燃料棒を一本一本慎重に引き抜いては,放射線を遮蔽する容器に収めていく.」
  7. 「再処理は意味がない.」
  8. 「手順を間違えれば炉心の核燃料が臨界(即発臨界)になって,爆発的にエネルギーを放出」
  9. 「(BWRの場合は)制御棒を押し上げる圧力が抜けると,制御棒が自重で滑り落ちてくるのである.」
  10. 「とりわけ核燃料の濃縮度の向上のおかげである」
  11. 「(一般商用発電炉の核燃料は)せいぜい20%くらいの低濃縮ウラン」
  12. 90%以上濃縮度の高濃縮ウランの使用について
  13. 「日本には潜水艦用の原子炉の設計経験がまったくない」

などに問題があるそうです。(詳細は、引用元をご参照ください)