k-takahashi's blog

個人雑記用

DDTの使用の是非についての補足 (群馬大学 中澤港先生の指摘より)

# 久々に更新されたのに文句をつけるのも何だが,今日の中西準子さんの雑感には賛同しかねる。Environmental Health Perspectivesに2002年に載ったレビュー論文(もっと新しいのを探したんだが2004年に出たサルディーニャ島でのDDT作業者の疫学研究1つしか見つからなかったし,当該研究は影響を過小評価する可能性があると思われた)には,「IARCは2Bと分類しているけれどもその後発がん性が高まるという疫学研究がいくつもある」という内容が書かれていたので,毒性に関しても「DDT使用と人健康影響との間にはほぼ関係がないことが分かってきた」というのは(たとえWHO文書の引用だとしても),断定的に書き過ぎではないかと思う。一般の方は,オーマイニュースに載っている中西さんとは正反対の意見も参照すべきだろう。
# 毒性の話を別にしても,少なくともソロモン諸島の主要ハマダラカであり屋内繋留性がなく早晩屋外吸血性という特性をもつAn. farauti No.1にはIRSはまったく効かない(当然のことだが)。殺虫剤含浸蚊帳の方がまだ有効である。それに,DDTはあまり効かなくなったから使われなくなって,原虫の薬剤耐性の問題と併せて,WHOの戦略が根絶から制御へと変化したというのがマラリア対策の大筋の流れだと思う。そこを外すのはまずい。また,中西さんの文中,「1980年代初期までWHOは熱心にIRSの普及に努めてきた」というのが本当だとすると,中西さんが示している図で,東南アジアのマラリアが1966-1976年に激増しているのは,時期的に言ってDDTを使わなくなったこととは関係ないことになる。症例報告数のデータということは,保健医療統計が整備されてきたことを反映しているだけという可能性は少なくない。
# 仮にDDTを使うにしても有効な地域に絞って丁寧に戦略を練って使うべきだし,これまでも全面禁止だったわけではなくてIRSが有効なアフリカでは使われてきたはずだから,要はこれまで通りということだ。昨年9月のWHO発表が,オーマイニュースの記事が指摘するように,古知新博士がぶち上げたプロパガンダであるという可能性は否定できない。また,熱帯熱マラリアの罹患数が年間5億1500万というのは(三日熱や四日熱も併せるともっと多いということ!)Snow RWらの2005年のNature論文で初めて言われたことで,WHOは2000年に似たような推計推定値を出しているが,推計推定方法が明らかに過大(少なくともアフリカ以外では)という批判もあり,マラリア数理モデルを研究していた自分の実感からしても,信頼性はやや疑問である。中西さん,もう少し慎重に書いた方がいいんじゃないだろうか。

http://phi.med.gunma-u.ac.jp/memo/20070605.html

 なるほど、というところです。わざわざコメントまで頂きありがとうございました>中澤先生


 ただ、専門家でない人間が両記事を読んでどう思うかというと、やはり中西先生の記事の方が説得力あるように思います。あとは、おそらく中澤先生もお忙しい中で日記を書かれているのでしょうが、いくらなんでも引用元がオマニー記事では中西先生に失礼ではないかとは感じました。(オマニーは普段は読んでいませんが、自分の専門分野に関わる範囲の記事で目にしたことのあるものをベースに評価するならば、信用するのは止めておきたい、というレベルでしたから。)


 DDTの毒性は、IARCの資料を見たところ

Overall evaluation
Chloral hydrate is not classifiable as to its carcinogencity to humans (Group 3).

http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol84/volume84.pdf

となっています。この実験自体が正しいかどうかと言う判断は素人には無理ですが、そうでないとしても2Bですから少量を壁に噴霧するという方式が顕著な癌患者増加につながるという判断はできないように思います。


 患者数の多さを考えれば(評価が10倍に過大だとしても5000万人以上)、DDTの抑制的使用を進めるというのは充分合理性があるように思います。実は毒性が従来考えられていたよりも強いかもしれない、DDTによる予防効果は期待よりも小さいかもしれない、という可能性はありますが、それは医療統計をきちんととり続ければ分かることですし。

 やはり現時点ではゴーサインでいいように思いますが、いかがでしょうか? >中澤先生
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