k-takahashi's blog

個人雑記用

銃・病原菌・鉄 〜 シヴィライゼーションはどのくらい正しいのか?

銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

 原始状態からスタートし、文明を発展させていくというテーマのゲームは昔から数多く存在する。知名度で一番なのは、コンピュータ化もした Civilizationだと思うが、最近のボードゲームだけみても、オリジンズアグリコラなど、人気テーマであることが分かる。
生産力を増し、人口を増やし、様々な技術を発展させていく、という流れはどれも変わらない。
これらは、まったく荒唐無稽な展開というわけでもないが、もちろんゲームである以上学術的正確さを追求しているわけでもない。 では、それらはどの程度妥当なのだろうか?


 という視点から読んでも面白いのだが、もともとは文明発展をまじめに考察した名著。もともとはニューギニアでの調査中に現地の人から受けた「ニューギニアとヨーロッパの今の違いは、なぜなのか?」というところから考察をスタートしたものらしい。

 他にも付随的な問題として、「欧州による南北アメリカ征服と、アフリカ征服と、アジア征服とで、なぜ違いが起こったのか」という分析も行われている。


 著者のジャレド・ダイアモンド氏の結論は、地理的条件が決定的な要因だった、というもの。氏はエピローグで以下の4つの要因だったとまとめている。

  1. 栽培化、家畜化可能だった動植物の分布が異なっていた。適正のある野生種が存在しない地域では、余剰作物の生産や蓄積は行えず、そこから先の集団形成は不可能だった。
  2. 伝搬や拡散の速度が大陸毎に異なっていた。作物の生産は南北よりも東西に広がる方が容易だった。また、一部の特殊な地形(山岳、地峡)などを超えて伝搬するのは実際困難である。
  3. 大陸間の伝搬も、大きく違いがあった。例えばユーラシアからアフリカへの伝搬は比較的容易だったが、オーストラリアは孤立している。また、ユーラシアと南北アメリカは、農耕に適した緯度では距離が離れており、距離の近い高緯度地位は農耕には不適であった。
  4. 大陸ごとに大きさや総人口に大きな違いがあった。


 タイトルの「銃・病原菌・鉄」は、ピサロがインカを征服したときのキーとなったポイントらしいのだが、銃はテクノロジーを支える社会の存在、鉄は利用できる天然資源の違いととらえることができる。

 病原菌は、ちょっと複雑。まず、農業の対象となる適切な野生種と家畜化可能な適切な野生動物が存在しなくてはならない(実は、アフリカには家畜化可能な野生動物は少ない。サイやカバを家畜化できなかったのには、ちゃんと理由があるのだ)。それらの条件が揃うと、農業生産力が向上し、より多くの人口が集団で生活できるようになる。ここで、2つの変化が発生する。一つは人間と動物が密集して生活することで伝染病の種類が増えるということ。(まさに、インフルエンザで問題視されているあのメカニズム) もう一つは、人間集団が大きくなると、病原菌が死滅せずその集団内に存在し続けることができるということ。集団の数が少なすぎると、保菌者がゼロになり、病原菌も耐性も失われてしまうのである。

 この病原菌は、南北アメリカでは一方的にヨーロッパ人に味方したが、別の地域ではマラリアなどのようにヨーロッパからの入植者にも被害をもたらすこともあった。ただ、歴史的に見てトータルでは、大集団に有利に働くメカニズムだったようだ。


 そんな感じで、上述の4つの結論に繋がる話が、様々な観点から語られていて面白い。たまたま適当な野生種がなかったがために農業が発展しなかった地域(現在の南北アメリカの穀倉地帯)には、適切な技術(家畜)と作物が持ち込まれれば、たちまちのうちに発展できた。同様に、存在しなかったテクノロジーが持ち込まれただけで、現地の人がスムーズにそれを取り入れた例も多い。これは、人種・民族の差が原因ではない傍証ともなる。


 以下、幾つかエピソード的に面白かった点を。

  • 文字の有無の差はやはり大きい。ただ、歴史的に調査してみると文字の発明は相当の難事業であったのは事実のようだ。初期の文字の中には、単なるリスト作り以上の能力は持たないものもあった。
  • 一般的には、狩猟採集民は農耕民より貧しいというイメージがあるが、これはあまり正確ではない。狩猟採集民が、農耕民をバカにしていた事例は数多く、また事実として、狩猟採集民より貧しい下層農民はいくらでも存在していた。
  • 狩猟採集で充分食べていけたから農耕が発達しなかった、というのはどうも間違ったイメージらしい。農耕を行える条件だったかどうかというのがより支配的な要因だった。
  • 実態の模倣とアイディアの模倣の違い。
  • 大規模集団が単純な社会では維持できない理由は、簡単に言えば諍いの仲裁のメカニズムが変わらざるをえないから。
  • ニューギニアとオーストラリア。ヨーロッパ人がニューギニアへの入植に失敗したのに、オーストラリアへの入植に成功した理由は何か。それが、病原菌(マラリア)・作物(小麦がうまく育たなかった)・タイミング(それらを克服する技術が開発された時期)の違いであった。
  • 黒人がアフリカを支配した。アフリカは黒人の大陸というイメージがあるが、実際は複数の人種が存在していた大陸。しかし、いわゆる黒人(バンツー)が他の人種(コイサンなど)を圧倒した。実のところ、スペインがインカを征服したのと同じような経緯をたどっているようだ。
  • なぜ、中国はヨーロッパに遅れをとったのか。もちろん、それはここ数百年に限ってのことだが、いずれにしても、中国がかつて保っていたリードを失ったことは事実である。その理由はなぜか。著者は、それを統一が強すぎたための弊害と見ている。


 細かいことをいうと、いきなりプロローグで

今日の産業化社会に見られるような、知的発育にダメージをあたえうる悪影響の元で子供達が育っていない(上巻、p.29)

とか出てきたり、

日本人が、効率の良いアルファベットや仮名文字でなく、書くのが大変な漢字を優先して使うのも、漢字の社会的ステータスが高いからである。(下巻、p.60)

とかあったりするので、おそらく全体には結構荒っぽい議論なのかもしれない、とも思ったけど。

結局、ゲームは正しいの?

 さすがに本書に書かれているような病原菌のメカニズムを再現したゲームは聞いたことがない。接触があったときに一方の勢力にだけ被害をもたらす伝染病というのは、あまり普通のゲームでは出てこないだろう。(ウェルズの宇宙戦争という例はあり、それを取り込んだゲームはある。TRPGのトラベラーの背景設定には似たような事例が紹介されていた。)
 先に家畜化しやすい野生種を押さえてしまうというのは、オリジンズにはあったような気がする。
人口の重要性や、生産力については、たいていのゲームでそれなりに再現されていると思う。 ただ、大陸をまたがるようなレベルでの技術移転にはそれほど制限はかかっていない。緯度方向と軽度方向の技術の伝いやすさの違いもあまり見た記憶はない。


 あまり場所の違いを強調するとゲームが難しくなってしまう(バランス的にも、プレイ的にも)から、当然か。