k-takahashi's blog

個人雑記用

完全教祖マニュアル

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

 どんなものでも真剣に取り組むと面白くなる、の実例。

実際の所、これまでも様々な宗教解説書が発売されてきましたが、「どうすれば教祖になれるのか?」という肝心の疑問に答えた書籍は一冊もありませんでした。その点、本書は様々な宗教の成功例を論理的に分析し、あなたの成功に役立つ部分だけを抽出した大変科学的なマニュアルです。あなたも成功したいならば、ぜひ素直な気持ちで本書を読み進めていって下さい。凡人凡俗であるあなたでも、本書を熟読し、忠実に従うだけで、間違いなく教祖になれるのです。(はじめに、より)

 教祖はいったい何をするものなのでしょうか? この答えは簡単です。教祖は人をハッピーにするお仕事なのです。教祖というと、どうしてもうさんくさいイメージがつきまといますよね。人を洗脳し、お金を巻き上げ、思うようにこき使う。宗教なんかにハマってしまうと不幸になってしまう。 とんでもありません!事実はその逆です。教祖は人をハッピーにするすてきなお仕事なのです。 イエスは何をしようとしましたか? 戒律により硬直化した社会を打破し、人々をハッピーにしようとしたのです。釈迦は何をしようとしましたか? 輪廻転生によるカースト制度を打ち破り、人々をハッピーにしようとしたのです。分かりますね? あなたの使命もやはり「人をハッピーにすること」なのです。(pp.13-14)

 実はここが一番難しい問題なのだが、あえて「ハッピー」という軽い言葉を使うことでさらりと流してしまっている。そしてあとは、歴史的経緯の説明も含めて具体的なアドバイスが進む。


 なので、実はことは宗教にとどまらない。本書にも格差対策やエコなどが実例としてあげられている。

社会は常に正しいわけではありません。そして、社会の提示する価値基準では「負け組」となってしまう人が必ず存在します。そこであなたがすべきことは、社会に反する新しい価値基準を提唱し、「負け組」に人を「勝ち組」へと変えてハッピーにすることなのです。(p.39)

キリスト教が「そのまま生活してると死んだら地獄に落ちますよ」と言っているように、エコは「そのまま生活してると将来地球に住めなくなりますよ」と言っているのです。(p.79)

彼らは自分たちを、社会活動家とかロハスとか名乗り、新興宗教とは名乗らないが、やってることは同じということがよく分かる。


 とにかく、まじめな内容を巫山戯た調子で語ることで、面白さを醸し出している。


 ニセ科学問題にも軽く触れている。
新興宗教が持つ「うさんくささ」を払拭する一方として「科学的体裁を取る」ことが薦められている。

とにかく科学的な体裁を取ることが大事なのです。大丈夫です。どうせ一般人は科学的検証なんて絶対しません。マイナスイオンは体によいし、コラーゲンを食べるとお肌がつやつやになるのです。(p.122)

あなたが現在において新興宗教を作るなら、もっとも適切な手段は「科学的体裁を取ること」です。信じるとか信じないとかいうレベルではありません。あなの言うことを信じるのが「当たり前だ」と思わせるのです。
 もちろん、科学的体裁を取れば批判的精神を持ったインテリが科学的に反論してくることもあるでしょう。しかし、一般人は見たいものしか見ないので関係ありません。(p.123)

と言って、ゲーム脳と水伝を例に挙げている。恐怖商法なんかは上述のエコなんかが相当するわけで、ニセ科学解説書としても面白い一冊です。


 たぶん、ビジネス書として読むこともできると思う。というか、世の中の大半のうさんくさげなビジネスの方法論は、ほとんど本書でカバーされているような気がする。