k-takahashi's blog

個人雑記用

ニュートン 2011年01月号

Newton (ニュートン) 2011年 01月号 [雑誌]

Newton (ニュートン) 2011年 01月号 [雑誌]

根岸英一教授、鈴木章教授のインタビューが掲載されている。「周期表でみるクロスカップリング反応」の図がいい。

根岸 そうですね。私はすぐに、周期表を思い浮かべて「どの元素がいちばん向いているんだろう」と考えるんです。
Newton 周期表を思い浮かべただけで、役に立ちそうな元素が分かるのですか?
根岸 周期表には、化学の英知が濃縮されています。たとえば周期表には「縦の関係」があります。おおまかにいえば、クロスカップリング反応がニッケルでうまくいくのなら、ニッケルの下のパラジウムやプラチナでもうまくいくかもしれないと考えました。また、ホウ素を試したあと、次にアルミニウムを試したのも同じことです。(p.15)


特集は元素の誕生。恒星内の核融合超新星爆発でできるという話はよく知られているが、そのもう少し詳しい説明が載っている。
ガモフのビッグバン理論とホイルの定常宇宙論が、元素合成の観点から説明されているのが面白い。
ビッグバン理論では、リチウムよりも重い元素が合成できないのである。一方ホイルの定常宇宙論では3個のヘリウム原子核が合体するトリプルアルファ反応という方法で重い元素の合成を説明できる。この反応には時間がかかるためビッグバンのような短時間ではダメなのだ。一方ホイルの理論ではヘリウムの存在量を説明できなかった。
現在では、ヘリウムはビッグバンで、リチウム以上の元素は恒星活動や超新星によってできたということで説明がついている。

その超新星による合成。原子核中性子シャワーが降り注ぎ原子量が大きな原子ができるということで、r反応(rapidのr。普通に恒星内で起こる合成はs反応(slow)。)と呼ばれているのだが、その詳細なメカニズムはまだ分かっていない(r反応による合成というのも、確実視されているがまだ仮説の段階)。加速器で行われる実験の中には、そういう検証も含まれている。一般に超ウラン元素は短寿命だが、「安定の島」というものの可能性もあるのだそうだ。


マグロ養殖記事も面白かった。海水でなくてもよいとか研究が色々行われている。
特に、鯖がマグロを生むというのに驚いた。鯖にマグロの精原細胞を移植し、そこでできた精子卵子を使って人工授精を行うというシステムで、鯖はマグロより飼育が簡単で生長も早いから、稚魚の生産だけでなく研究や品種改良にも向いている。また、放流用にも向いているそうで、

マグロ10匹の細胞を雄の鯖に移植すれば、一匹の鯖が10匹分の多様性を持つ精子を造ります。同じことをメスにも行えば、メスも10匹分の卵子を造ります。そのワンペアが交配すれば、10の2乗で100通りの遺伝的に多様なマグロを産みます。つまり、マグロ100ペアが交配してできる遺伝的多様性を、ワンペアの鯖で造ることができるのです。(p.97)

なのだとか。


遺伝についての短信記事「ラットの実験で、後天的に得た性質の遺伝が報告された」というのがちょっと不思議な記事。糖尿病的な食事で育った父親の娘が糖尿病的になったという実験報告で、父親からというところがポイント。精子しか伝わってないのだから、ここから伝わったとしか考えられないわけだ(母親からなら、他の物質の可能性もある)。体細胞のDNAにメチル基による修飾が起こることはともかく、それが精子に影響するというのが興味深いところ。
ただし、まだ追試が行われている段階らしい。