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いったいこれは、どこのナディアだ?
古城の地下に広がる地下水道、古い王朝時代の工房、尖塔を飛び回る影、地下から巻き上がる火事の煙。
いったいこれは、どこのカリ城だ?
アルセーヌ・ルパンを実在の人物だとし、ルブランの著作を「ほぼノンフィクション」としたうえで、第一次大戦後の世界情勢を揺るがす事件を描いた作品。
なのだけれど、上述のように某アニメの影がちらついてしまってなかなか読みにくい。ヒロインの少女ドロテ。彼女は「ルパンの娘なのか?」という立場なので、黒髪青瞳の少女なのだけれど、上述のようにどうしてもナディアが浮かんでしまうわけでして。
ただ、この読みにくさは2冊目の中盤までで、2冊目のラスト、イーシー・レ・ムリノー飛行場からジャンのニューポールが飛び立つ辺りからは気にならなくなる。そして、3冊目冒頭の空中戦(というか、空中活劇)シーンは面白かった。
瀬名作品なので、物語論物語的なところがもちろんあるけれど、そこはあまり効果的には使われなかったかなと思う。冒頭の1963年のシーンに出てくる二人の作家の正体は、私は最後まで分からなかったけれど、初出の「小説推理」の読者ならすぐに分かるのかもしれないし、そこが分かった上で読むと物語論物語として、また違う読みが出来るのかもしれない。
あとは、本当は「813」とか「奇岩城」とかきっちり頭に入っているルパンのファンだと、もっと楽しめたんだろうな、とも思う。原作のルパン、本作中でルブランが描写したルパン、本作中のルパン、ルパンの正体と疑われる男、そのまたニセモノ、とややこしいところも、それぞれがなにがしかの物語論的役割を担っているはずなのだけれど、正直読み切れず。(私の小学生の頃の好みは、ホームズ>乱歩>ルパン、だったもんで、記憶もあやふや。)
ということで、ちょっと自分が想定読者からはずれていたのかな、という印象。
混沌とロマンスの関係とかも、SF誌連載ならもっと暴走できたのかもしれない、というか、帯に「SF」の文字が入っていたので、もっとそちらの方向を期待していた。
ネタバレ注意
一旦作られた暗号や符帳に対して、後代がそれに合わせて物事を進めたので、時代が合わないのに暗号が成り立つ、というのは面白い見方だと思った。ただ、面白いのだけれど、やはり物語論物語としてはあまりうまく繋がっていなかったように思う。