- 作者: 谷甲州
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2013/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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それぞれの場所での土木工事中に事故が起こり、それに対応する技術者達が描かれる。最初の『コペルニクス隧道』が書かれたのは1988年だから、実に25年がかりということになる。
この『コペルニクス隧道』で問題になるのは月の砂。まったく水分を含まず、そのくせ時に流体的に振る舞うこの月の砂を巡っての事故というとクラークの『乾きの海』*1を連想するが、あちらが観光船の事故なのに対して、谷甲州は土木工事現場。うむ、さすだが。
各作品ともに、特殊な環境でのトラブルであり、その環境の面白さ、トラブルの興味深さ、そしてそれに立ち向かうエンジニアの格好良さ、読んでいてワクワクする。
最後の『星を創る者たち』のオチは、途中までは予測の範囲内だったし、舞台も当然あそこだろうと思ったけれど、ラストはそりゃ予想できないよ。
『乾きの海』以外にも、何カ所かクラークを思わせるシーンやキャラクターが出てきた。宇宙開発SFの王道を行っているからということなのだろう。
いいですか、前例を作るのは我々であり、責任を負うのも我々なのです。技術者という職種はそのために存在するといってもいい。中央官庁の技術官僚であっても、民間企業の技術職であってもおなじことです。それさえ忘れなければ、決断を誤ることはありません。
(p.246)
「灼熱のヴィーナス」の一節より。
同作の本部長に某政治家の姿が重なってしまったが、この辺が谷甲州的な回答ということなのかな、とも思った。
*1: